|魔道装甲《ルーンアーマー》シェフィールド。「時代は婚約解消よ」「そうなの?」
サウザント
第1話公爵令嬢は婚約解消を申し込む。
それは、アベルの幼い頃のおもいで。
幼なじみの公爵令嬢。初対面で、彼女は一生懸命にしゃべってきた。女の子というより悪ガキ。広い庭中を走りまくり、木に登り、多くの友達と激しく遊んだ彼女。もっとも、彼女についていけたのはアベルだけ。遊んだあとのお茶とお菓子は旨かった。
「あたし、みんなのための国をつくる」
それは、彼女が王子の婚約者候補になったとき言ったことば。多分、何も考えず言ったのたろう。
今の彼女は、昔のやんちゃなこどもの面影はない。赤く長い髪を結い上げ、同じような赤いきらびやかなドレスを身に纏っている。おしとやかな若く美しい淑女。しかし、にこやかに笑っている彼女の目は笑っていない。以前から相談は受けてきたが、もう、我慢の限界なのだろう。しかたない。
エスト公爵令嬢は、大勢の出席者の前で宣言した。
「マリウスさま、申しわけありません。あなたのような方と一生添い遂げる自信がありません。贈り物一つもらえないわ、自分の仕事は押し付けるわ、他の女と仲良くするわ、色々罵詈雑言言うわ、我慢できません。婚約解消してください。あ、私の有責でかまいません。慰謝料も払います。その方がお互いのためでしよう?」
その正面には、その婚約者、金髪碧眼の眉目秀麗、均整が取れた美形の男が華美な礼服にを観には纏い立ってきた。そのとなりには、白銀の髪の、小さめで、それでいて胸部と腰部の自然な装甲が厚い女が、軽量化のためか、体をおおう面積が少ない白いドレスを身にまとい抱きついている。
ここは、王国学園の大ホール。夕刻、卒業パーティーのさなか。王国王子のマリウスが、婚約者に婚約解消をいいわたされたのだ。
王子の右には騎士団長の息子ライ。大柄で逞しいからだつきだ。左にいる細いのは外相の息子のレフ。そして、王子と恋人繋ぎで手を繋ぎ抱き付いているのがイシュタル侯爵令嬢。
王子は、苛立った様子で怒鳴る。
「何を馬鹿なことを言う。この婚約は王命だ。勝手なことは許されない。第一、私はこの国の王になる男だ。おまえの家が困るぞ。確実にお前の父親は、宰相職を解かれる。今なら許す。前言を撤回しろ」
エストは、天真爛漫に笑う。
「なぜですか? 王子妃教育では、私は劣等生。イシュタル様のほうが優秀と聞きます。王子もそう言っていたではありませんか。イシュタル様を王子妃に迎えたほうが良いでしょう。また、レフ様のお父上は、私の父は働き過ぎだ。あとは、任せろと何度も言っているではありませんか」
イシュタルとレフは何も言わない。エストが言った通りではあるが、ここでは人の目もあるので、迂闊なことは言えないのだ。
代わりに王子が怒鳴る。
「何を言うか。お前は王子妃として十分な能力は持っている。あとは、一足後ろに下がり、周りのもの協調性があればいい。王子妃教育の教師も、官僚も、反抗的でやりにくいといっていたぞ」
「そうですね」
エストは、ため息をついた。
「教師も官僚も、わたしが聞きたいことは答えてくれません。第一、質問したら怒られるのてすよ。たとえば、王族に関わる礼法の、一般人と貴族、王族はなぜことなるのかとか、財政で一部収支が合わないときはどうするのか、とか。あと、王子様に聞きたい案件か多数ありましたが、なぜ、常に会えないのですか。手紙もほとんど読まれていないみたいですし」
それに対して、王子の隣にいたイシュタルか答えた。
「王子は忙しいのです。武芸の鍛練や、あなたが嫌いな社交でね」
アベルは自分の顔がひきつるのを感じた。確かに王子は武芸の鍛練に勤しんでいる。しかし、
「そうですね。確かに私には社交に難があります。人を怒らせることが多いみたいですし」
エストはあっさり認めた。イシュタルは彼女を見て嗤った。
「しかし、その社交と武芸でかなりの支出があります。すでに予算は使いきってます。その補填はどうなさってます?」
イシュタルの笑顔が固まった。そして、その取り巻きたちも。
「我々は知らない。エスト、お前が使い込んだのではないか?」
「では、その証拠はありますか。わたくしに関しての。もし、それが正当な証拠に基づいたものなら受けいれます」
エストが朗々とした声で話す。マリウスは、それを苦々しげに見つめた。
「ないなら、婚約解消の件、進めて頂けますか? もし、無理なら私のほうで進めますが」
「話にならん。これは王命。そう易々と変えられない」
エストは、この言葉を聞いて怒った。
「じょーだんじゃ、ありません。あたしがどれだけ我慢してあんたたちの仕事してきたか。あたしの意思は、この国を良くしたい。それだけよ。せめて協力的なら御飾りだろうと、白い結婚だろうと、仕事だけのパートナーだろうと、なんだってやってやるけど、あんたらなんもやってない。私だけ苦労するのはもう沢山。嫌よ。父上には悪いけど、過労で倒れるなら出世なんか諦めさせるわ」
「考えは変わらないか。お前の能力、国への忠誠心、それは評価できる」
「変わりません。残念だけど、こんなことなら願い下げよ」
「……はっきり言おう。父上も、母上も、俺も、婚約解消はしない。お前以外に次の王太后はいないからな」
彼もわかっているのだ。自分の能力、側近の能力。国を動かすには足りないことを。
「近衛。わが婚約者はお疲れだ。別室にて休んでもらえ」
警護の近衛兵か、マリウスの命令に従い、エストを確保しようとする。
何人かの貴族子息や令嬢が、エストを守ろうとする。この中にはアベルもいた。その胸には卒業の印、騎士証が輝く。このパーティーの卒業生は皆もっている。王国では、学園の卒業にともない一代限りの騎士爵が手に入る。騎士爵は、貴族が必ず持つ必要があり、ないと貴族とは認められない。特に高位の貴族には。
マリウスはイラついて怒鳴った。
「お前らも、不敬罪で逮捕するぞ。騎士の資格を取り消す」
エストを守ろうとする貴族子息は、マリウスの言葉に動きを止める。彼らは貴族になるために、学業に武芸にうちこんだ連中だ。その苦労を一瞬で失うことにためらった。そんな彼らを見て、エストは前にでる。そしてマリウスに笑いかけた。
「わかりました。マリウス様にしたがいます。婚約解消は撤回します」
背後がざわつき、不穏な気配が蔓延する。エストは、後ろを向いて微笑む。
「皆さん、おとなしくしてください。大丈夫、問題ないですよ」
それを聞いて、マリウスは怒鳴った。
「何を言っているか。最初から文句一つ言わなければ良いのだ。バカなことをいうんじゃない。」
アベルは、エストが奴隷になるのを決心したと感じた。あの連中なら、エストをつかい、すべてを押し付けるつもりだ、と。そして、それはアベルからは許すことはできなかった。エストはただの道具ではない。一緒に色々手伝ってきたからわかる。
アベルは、一歩前に出た。そして、騎士証を引きちぎり、王子に投げつける。王子の胸にあたり、下におちた。
あたりは、しん、と静まりかえる。
王子は投げつけられた騎士証を踏みにじると怒鳴る。
「おまえの騎士証か。なんのつもりだ」
この国では、騎士証を投げつけるのは、その地位をかけて決闘すると宣言することを意味する。そして、決闘は神聖。その結果はたとえ王家でも覆してはならない。なぜなら、その決闘の結果がこの国の成立の根拠となったから。
アベルは、王子の面前に出てきた。エストは驚き呟く。アベルくん、と。
「王子。アベル ウエストと申します。ウエスト子爵家次男です。意見を申して宜しいですか」
マリウスは、アベルの言葉に怒りを顕にした。
「愚かもの! 身分が違う。お前も不敬罪だ」
「ならば、是非もなし。マリウス様、わたしはあなたに決闘を申し込む。ここで立たなければ王家への忠節と貴族としての矜持に傷がつくから。しかし、不貞をなし、責があるにも関わらず、正当な要求を否定するなど言語道断。要求は、エスト公爵令嬢の婚約解消。まさか、王子ともあろうものが、高々子爵家次男に尻尾を巻いて逃げるとはおもいませんが、いかがですか。決闘を受けてくれますか」
マリウスは怒り心頭に達したようだ。
「不敬しかできない騎士の面汚しめ! 良いだろう、たたきのめしてくれるわ。こちらの要求は、お前の極刑。今から一時間後。鍛練場で、
どよめく卒業生たち。
アベルは答えた。
「御意。我が命、義の為に果てるなら騎士としての誉。願わくば、エスト公爵令嬢を解放し、正道に戻られることを願います」
マリウスは顔を赤くして怒鳴る。
「正義は我らにあり。お前には罰が必要だな。決闘受けてやる。逃げるなよ」
そう言い、マリウスたちはパーティー会場をでていった。
ここで、アベルも外に出ようとする。が、
「アベルのバカ!」
エストがアベルの頭を全力で殴った。
「なにバカなことしてるの! まだ、他にも手はあるのよ。むしろ、アベル、あんたが王国にけんか売ったのよ。あんたの人生真っ暗よ! 分かってるの?」
アベルは、痛む頭を抑えながら囁く。
「人が見てますよ。エスト様」
もう一度叩こうとして、いや
殴ろうとして思いとどまるエスト。
「もういいわよ。頑張って、婚約解消でれるようにねこさんの革を何重にも重ねて守っていたのに。これじゃ台無しよ」
そこに、伯爵令嬢の一人が突っ込む。
「え、あれで自重してたの?」
その一言に多くの貴族子女が大きな声で呟く。
「まさか、わかってやってたと思ってたのに……いろんな悪いこと全部かいかくしちゃうわよーって、笑っていたわよね」
「生徒会に反旗を翻した学食改善闘争。あれはすごかったな。教師やマリウスの顔丸潰れだもんな」
「風紀取り締まりの改善。一部学則の撤廃と規律取り締まりの強化、あれも見事だったよな。先生も風紀委員も二の句がつけなかったよな」
「教師の忖度の改善や、不正行為の摘発、学園祭の自由化の推進なんかもすごかったです。みごとでした」
「マリウス王子が独占してた訓練場の解放もあるぜ。あれであの方の本性が、いや、ああ、うん、」
「意外と天然なのね。エスト様も。まあ、竹を割ったひとだからね」
「うーん、残念だ。婚約解消か。マリウスが尻に敷かれる様が見たかったのに」
「あほか。マリウス王子じゃ、エスト様の隣は無理だよ。人望も努力も天然さも足りない。せいぜい顔とスタイル位じゃないか。あの人の取り柄」
「いや、逆にいいよ。エスト様、これから自由にいろいろするだろうから」
生あたたかい瞳で周囲からみられるエスト。だが、本人はアベルに突っ込む。
「もう少し、自重するか、考えるかしなさいよ。とりあえず、一緒にマリウス王子に謝りに行ってあげるから、土下座しに行くわよ」
エストは、アベルの手を引いて、マリウスの後を追おうとする。しかし、アベルは引き留めた。
「大丈夫だよ、エストさん。僕に腹案がある。」
アベルは自信満々に答える。
「僕のスキル、
エストはどなった。
「あなたバカなのよ。あいつ、約束守れると思ってるの? しかも、外聞にしか興味ないから。それを潰すと厄介よ」
外野が、エスト様がそれいうのかと、つぶやくが二人は気にしない。
「あいつはともかく、周りの意見は無視できないよ。まあ、安心して。どちらにしろ、大事になっている。決闘さえ乗り切れば、なんとかなるよ」
それに、と、アベルは思う。最悪、国から逃げればいいのだ。彼にはやりたいことがあるから。エストにも言っていないこと。彼女はバカと言われそうだか、まあ、いいか、と。
「ああ、もう、わかったわよ。うう、あたしの計画が全部おじゃんよ。婚約解消後、初の女性宰相になって、国を裏から立て直すつもりだったのに。ここで断られても、まだ、建て直しできるのに」
ここでエストは、腹をくくったようだ。
「仕方ないから何でもいいから勝ちなさいよ、いい。あとは、どうにかするから」
アベルは、笑って敬礼した。
「勝利の栄光を君に」
そして、アベルは意気揚々をパーティー会場を去る。彼の愛騎、
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