第2話 バッドニュースエレベーター

 何日も待った。

 何か月も待った。

 誰も起きてくれない。

 僕はトキオシェルターの隅々まで見て回った。

 エリとネネの他に12人の知っている人がいて、1985人の知らない人がいた。

 生きているのかどうかわからない。

 でも死んでいる方がマシかもしれない。

 悪いニュースがある。

 ここは地下250メートル。

 地上へ昇るためのエレベーターが故障している。動かない。

 完全な絶望かと言うと、そうでもない。少しだけ希望がある。エレベーターの竪穴に鉄の梯子が取り付けられているのだ。

 でもその梯子は錆びて朽ちかけている。無事に地上へ登れる保証はない。はっきり言って、これで250メートルも登るのはかなり怖い。

 井戸水を飲み、缶詰を食べて、僕は生き延びている。

 2000人が半年間生き延びられるだけの備蓄がここにはある。

 僕ひとりだけなら、いくらでも生きていける。

 でも寂しくて死にそうだ。

 地上はどうなっているのだろう。

 どこかに無事なシェルターがあって、人類はまた繁栄していないだろうか。

 誰かが僕を助けに来てくれないかな。

 わからない。

 まったくわからない。

 死にそうだ。

 死んだ方がマシだ、と何回も繰り返し思う。

 思考を堂々巡りさせているとき、ポフッという音を聴いた。

 食糧庫の方からだ。

 そちらを見て、僕は驚愕のあまり目を剥いた。

 根室ネネの冬眠カプセルが開いている。

 よりによってネネが起きた?

 僕は駆け寄った。

 ネネはゲルの中で微動だにせず、目だけ開けていた。

 僕を認めると、にいっと笑った。

 ぽちゃりと水音を立てて、その右手を僕に伸ばした。

 僕はやむを得ず、手を取り、彼女が起きるのを手伝った。

「げほっ」

 ネネはゲルを吐いた。

「ハル……くん……大好き……」

 それがネネの第一声だった。

「前にも言ったよね。きみとはもう会いたくないって」

「また……会えた……。この……シェ……ルターに入った……とき、こうして……会えるって、信じて……た……」

 ネネは外見は美しい。しかしその心は醜い。

 高校1年生の3月、エリを背中から刺したのだ。ネネは獄中に入った。しかし彼女は巨大な権力者のひとり娘で、父の絶大な政治力によって、このシェルターにやってきた。

 ネネはあたりを見回した。

「ここ……あたしと……ハルくんだけ……しかいない……の……?」

「1998人がやがて起きてくる」

「いまは……ふたりきり……なの……ね」

 ネネはうっそりと笑った。

 その笑みは氷よりも冷たかった。

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