SNSを耕したい

 おだやかに晴れた休日。俺も千歳もこたつでまったりしていた。

 珍しく紅茶が飲みたくなって、俺は紅茶入れようと席を立った。そして、ふと、ついでに千歳にも紅茶入れてあげたら喜ぶかと思った。千歳は普段割と紅茶を飲むし。


「ねえ千歳、紅茶入れたら飲む?」

『飲む!』


 元気なお返事だ、大変よろしい。


「はいよ」


 前に千歳が話していた、緑さんのおいしい紅茶の入れ方を真似る。

 まずお湯を沸かす。湧かす間にマグカップの内側を濡らして、小皿で軽く蓋をして、電子レンジにかける。熱々になったマグカップに熱湯を注ぎ、そっとティーバッグを沈めて小皿で蓋をし、2分蒸らす。


「はい、どうぞ」


 俺は両手にマグカップを持って千歳のところに行き、片方のカップを千歳に渡した。


『ありがとな』


 千歳は笑った。

 紅茶は詳しくないけど、たまに飲むと落ち着く香りでホッとするし、お腹が温まる。そういや紅茶って、薬膳だと安神、つまり精神安定で温の食材だったな。


「仕事、やっと落ち着いてきたんだよね」


 俺は紅茶をすすりながら言った。


『そんな大変だったのか?』

「まあ、7月から入社して、やることいろいろ変わって。今までやらなかったことたくさんやらなくちゃいけなくて、覚えることもたくさんで。でもやっと慣れたかなって」


 その間、死にかけて肋骨折ったり、嬉野さんとトラブルになりかけたり、他にも私生活にいろいろあったわけだけど、その割に仕事は頑張ったと思う。


「そんでさ、気持ちに余裕出てきたから、今日はじっくりSNSを耕そうかと思って」


 俺は手元のスマホに目を落とした。


『耕す?』

「昨日、Discordでそんなこと狭山さんたちと話しててさ」


 アメリカ大統領選で旧Twitterが激変してしまい、他SNSへ流れる人が増えている。これまでも多くの人がBlueskyやThreadsやMisskeyを避難場所にしていたが、もはや避難ではなく移住になりそうなのである。

 狭山さんや俺みたいな仕事してる人間にとって、SNSは重要な情報源だ。移住した人を探し、自分のSNSも整備して、情報収集と発信の場として使えるようにしないといけない。


『それが耕す?』

「そういうこと」

『そうか、令和の畑はインターネットなのか……』


 千歳は何か沁み入るものがあったようで、神妙な顔で頷いた。


「まあ、収獲があるという意味では畑かな」

『狭山先生もBlueskyやるのか?』

「もう告知はBlueskyでもやってる。個人的な投稿はMisskey.ioメインにしたいらしいけど、今後の状況次第でBlueskyにもするかもって」

『お前もBlueskyいるのか?』

「一応アカウントは持ってる、個人用と仕事用。どっちも何も書いてないけど」

『Blueskyって面白いか?』

「うん、古き良きTwitterって感じだねえ。Twitterにない機能もたくさんあるし、使いこなせたらそれも面白そう」

『Blueskyでもお前フォローさせろ』

「うん、Blueskyをスプにゃんで探したら出るよ」

『じゃあ作ってみよ』


 千歳は自分のスマホに目を落とした。


「一人でできる?」

『やってみる、できなかったら教えてくれ』

「はいよ」


 俺は紅茶をすすりつつ、BlueskyとThreadsの整備に熱中していた。しばらくして、Blueskyの「スプにゃん」アカウントに通知が来たので見ると、『ちっち』アカウントがフォローしてくれていた。千歳のアカウントだ。


「おっ、一人で作れたんだ」

『まあな』


 千歳は自慢げに言った。


「狭山さんもBlueskyの中検索すれば見つかるよ、「狭山誉非公式告知手動bot」ってやつ」


 千歳は面食らった。


『なんでそんな長い名前なんだ』

「えーとね、「てんころ」と「子供騙しじゃ騙せない」の担当さんが、旧Twitterで狭山さんの新作更新ツイートしてくれてるそうなんだけど、その内容をそのままコピペして狭山さんが投稿する用に作ったアカウントだから」


 狭山さんの担当さんは、おっくんだけじゃないのである。


『ややこしいな……他にももうちょっとフォローしたいんだけどさ、おすすめないか?』

「じゃあおすすめの投稿いくつかリポストしとくから、そこから適当に選びな。あ、あと、千歳には青空ごはん部フィードもおすすめかな」

『フィードってなんだ?』

「そっち行くよ、説明する」


 俺はこたつを出て、千歳の隣に行った。


「フィードっていうのは、あらかじめ決めた条件に合った投稿を拾う仕組みでね、青空ごはん部はその日のごはん写真を上げ合うフィードで……」


 千歳の隣で、二人で同じスマホを眺めながら話をする。千歳は真剣に聞いてくれる。

 なんてことない時間なんだけど、俺は、千歳の存在をとても近くに感じて、幸せだった。

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