身分証明で酒飲みたい
俺と千歳で練った作戦はこうだ。
まず、千歳は今のマイナンバーカードと同じ顔で役所に行って再発行を申請する。で、その時『この写真特殊メイクで……』の言い訳をし、この場でメイクを落として別の顔になれるからそれで本人確認とさせてくれ、と頼む。で、役所の人が見ている前で拭くメイク落としか何かで顔を覆い、朝霧の忌み子の姿になる。
「とはいってもさあ、今の千歳じゃ二十歳に見えないし、体格も変わっちゃうから、宇迦之御魂神さまにもらった朝霧の忌み子の二十歳の姿になったほうがいいかなと思う」
『あー、なるほど』
一応、千歳に女子大生の姿と二十歳の朝霧の忌み子の姿に交互に変わってもらったが、さほど体格は変わらないようだった。これなら顔だけ隠せば、メイク落としたってことでいけるな。
「音と煙出さないで姿変えられる?」
『すごく頑張ればできる。たぶん大丈夫だと思うけどさ』
千歳は何かすがるような目で俺を見た。
『あのさあ、その方が大人だと思うから役所で必要なことは全部一人でやるけどさあ、やっぱり怖いから、ついてきてちょっと遠くで見てて欲しい』
うーん、俺にできることは特にないのだが、千歳にそう言われてついていかない選択肢はないんだよな、俺は。
「午後なら行けるよ」
今日の午前は俺が所属するグリーンライトのコアタイムなのである。いつでも行ってあげたいけど、いつもは無理だ。
『じゃあ午後、一緒に役所!』
「はいはい」
そういう訳で、俺は千歳とバスに乗って、役所最寄りで下りた。役所近くの証明写真機で二十歳の朝霧の忌み子の姿の写真を取る。その写真と保険証と年金証書で、千歳(女子大生のすがた)はマイナンバー再発行チャレンジに挑んだ。
俺は少し遠くで千歳と役所の人のやり取りを見ていたのだが、役所の人は千歳の顔の変わりっぷりに驚いたものの、ちゃんと手続きをしてくれ、全ては無事に済んだ。
二人で一緒に帰る中、千歳はぼやいた。
『再発行一ヶ月以上かかるって、長いなあ』
「その間は、身分証明は保険証と年金証書に頼るしかないね」
『まあしょうがないか、待てば手に入るんだしな。……あっ』
千歳はなにかひらめいた顔になった。
『大人の姿と大人の証明書があったら、ワシ気軽に酒買えるのか!」
「ん? 飲みたいお酒でもあるの?」
『たまにはビール飲みたいし、お菓子作る用だけど洋酒も欲しい』
「あー、なるほど」
『よし、マイナンバーカード届いたらビール買ってやろ!』
千歳は拳を天に突き上げ、嬉しそうに笑ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます