本来の顔で作りたい

 千歳(朝霧の忌み子のすがた)がしおしおした顔で買い物から帰ってきた。


『マイナンバーカードが割れた……』

「えっどうして!?」

『落として轢かれた……』


 話を聞くに、千歳は身分証明をいつでもできるようにマイナンバーカードを財布に入れてたらしい。で、今日は星野さんに帰りは車に乗せてもらったそうなんだけど、そのために駐車場に行って、その時に財布を落としちゃって、駐車場で動いてた車に財布を轢かれたと。マイナンバーカードを見せてもらったが、まあ見事にぱっくり割れていた。


『財布はタイヤの跡ついただけだったんだけどさあ、マイナンバーカードだけ割れた』

「そっかあ、不運だったね」

『セロテープでくっつけたら使えないかなあ』

「いや、本人確認用のICチップ壊れてるかもしれないし、役所行って再発行してもらいな」

『わー、めんどくさ』


 千歳は露骨に嫌な顔をし、それから手に持った割れマイナンバーカードに目を落とした。


『これさあ、新しく作ってもらうついでに写真差し替えられないかなあ』

「え?」


 一瞬千歳が何を言ってるのか分からなかったが、マイナンバーカードの写真と今の千歳を見比べて、俺は理解した。マイナンバーカード、千歳が朝霧の忌み子の姿を出す前に撮った写真で申請したから、今と全然違う顔が載ってるのだ。


「今の顔でいいの?」


 前にマイナンバーカード作った時、千歳は朝霧の忌み子の姿で写真撮るのを嫌がったのだが。


『うーん、前は嫌だったけど、なんかワシこっちの方が顔いいみたいだからさ』


 千歳は何でもない顔でサラッと言った。うん、まあ、自分の本来の姿が嫌いじゃなくなったのはいいことだけども。


「まあ、その、どっちもかわいいよ」

『でもさあ、いきなり違う顔のやつがこの顔で作り直してくださいって言って通るもんかなあ』

「あー、それは難しい問題だね……」


 妥当な懸念である。千歳の言うことができちゃったら、身分証偽造し放題だもんな。うーん、どうするか……。

 あ、そう言えば、俺は千歳がポンポン姿変えられることを「特殊メイクとコスプレが趣味なんです」で誤魔化すことにしてたな。


「えーと、本人であることは間違いないんだし、特殊メイクってことにしたらどうかな?」

『特殊メイク?』

「メイクなら落とせるじゃん。マイナンバーカードの写真の姿で役所行って、『この写真撮った時は本来の姿が好きじゃなくて特殊メイクして撮っちゃったんですけど、やっぱりよくないと思うから本来の顔で作り直したいです、メイク落としてきます』って言って、トイレかどっかで隠れて今の格好になって、『こっちが本当の顔です!』って出ていけば何とかなるんじゃない?」

『おおー、なるほど……』


 そんな訳で、俺と千歳はマイナンバーカード写真差し替え大作戦について、いろいろと詳細を練ることになった。

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