閑話 ハンドミキサー

『新しい武器を手に入れたぞ!』


 千歳がハンドミキサーの箱を掲げた。


『これでメレンゲ使うお菓子が作れる』

「あー、手で泡立てるの大変なんだっけ?」

『うん、めちゃくちゃ時間かかる』


 千歳は箱を置き、中からハンドミキサーの部品を取り出し始めた。


『試しにシンプルなの作ろうかな』

「どんなの?」

『とりあえず、メレンゲクッキー』


 そう言う訳で、その日のおやつにはメレンゲクッキーが山盛り出た。白いのとココア味のと。


「えっ、こんなに食べれるかなあ」

『食べれるって、卵白二個分と砂糖だけで、あとは空気だもん』

「えっ、それだけでこんなに!?」

『日持ちしないから、食べられるだけ食べろ』

「はーい」


 とりあえず、ひとつ口に放り込む。噛むとサクッとして、甘さだけ残してシュワッと溶けていく。本当に空気がメインなんだな。


「おいしい、これならいっぱい食べられそう」


 千歳もメレンゲクッキーを口に放り込んだ。


『うん、初めての割にうまく出来た。レシピ調べたらいろんな味のが作れるからさ、今度はゆず風味の作ってやるよ』


 俺はゆずだのレモンだの、柑橘系のフレーバーが好きで、千歳もそれを知っている。


「えっ、そんなのできるの!?」

『レモンの皮入れて作るレシピあるから、それをゆずの皮に変えたらできると思う』


 そういや、星野さんにまたゆずたくさんもらったって言ってたな。


「千歳すごいなあ、何でも作れちゃうなあ」

『何でもは無理だ、レシピないと』


 千歳は、口ではそう言ったが、嬉しそうだった。

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