こんなにされても目覚めない

 咲さんの友達に、メイク前のインタビューをされている。


「女装は何回目ですか?」

「えーと、今日で3回目ですね、これまではさ……メイキャッパーメス堕としさんに初めてお会いした時と、売り子をした時」

「今日はどんな気分?」

「完全にビビっています」

「大丈夫ですからね、何も怖くありませんから」


 本当にAVで致す前のインタビューじゃないか!

 咲さんは編集担当の友達、駿河さんと組んでメイクチャンネルをしているということで、その駿河さんの家でインタビューを受けている。もうカメラは回っていて、千歳とおっくんはカメラの後ろで見物している。


「じゃあメイクに移りましょうか。大丈夫、とびきりすてきなお姉さんにしてあげますからね」


 馬の被り物した咲さんがこちらに来た。メイクチャンネルでの顔出しはしてないとのことだ。


「今回はプチプラで変身してもらいます!リーズナブルにこれだけ変身できるって見せちゃいますよ!」


 そんなわけで、咲さんは化粧の順にひとつひとつコスメを紹介しながら、俺をメイクしていった。すごい、どんどん女の人の顔になっていく……。


「はい、完成です!もっと女の子らしくなってもらうために、髪とお洋服も揃えてきますね!」


 駿河さんが一旦カメラを切り、咲さんは後ろに下がって、前に俺が着たロングワンピースとロングヘアウィッグを持ってきた。


「みんなあの売り子さんを求めてるので、同じ服にしました。あ、このまま被って着ると化粧落ちちゃうんで、これ顔に被って着てください」


 不織布のでかい帽子のようなものを差しだされ、俺はおとなしく言われたとおりにして着て、ウィッグもかぶった。

 カメラの後ろで千歳(朝霧の忌み子のすがた)が『うわっすごい!』と騒いだ。


『本当にお姉さんになった! なんか、お前パッと見で頼りなく見えるけど、それが化粧するとすごく優しそうなお姉さんって感じになる!』

「そりゃ頼りがいのある見た目じゃないけどさあ!」


 ヒョロガリだけどさあ!


『見た目だけだ、本当はすごく頼れるからいいじゃないか』

「え、そ、そう?」


 唐突に褒められたな……。


 おっくんも「髪と服揃えたら、いきなり女の人になったよ」と言った。


「マジか、俺そんなにお姉さんになってる?」

「なってるなってる、喋ったら声低いのにびっくりするくらい」


 咲さんが得意げに言った。


「ちゃーんと女装向けの服選んでるもん。タートルネックだし、ケープついてるし、萌え袖でしょ?」


 えっそれ女装向けなの?


「すみません、それだとどういう風に女装向けなんでしょうか?」

「女装で、男性の特徴目立つのが喉仏と肩幅と手の甲なんですよね。タートルネックはの喉仏隠すし、ケープは肩幅広いの隠すし、萌え袖は手の甲の骨ばったの隠すので」


 へえー、なるほど……。

 千歳が咲さんに聞いた。


『なあ、ワシこいつの写真撮っていいか?』

「いいですよ、でもネットに流さないでくださいね。あ、どうせなら髪整えてからにしましょう」


 咲さんが俺の被ったウィッグに櫛を入れ始めた。梳かすのが終わったあと、千歳はあらゆる角度から俺の写真を撮り始めた。


「そんなに撮ることある?」

『だっていつもと全然違うから!』

「鏡見たいな」


 駿河さんが笑った。


「メイク後に初めて鏡見るところは撮れ高なんで、カメラ回します」


 なるほど。

 そう言う訳でカメラが回り、俺は鏡を見せてもらった。


「うわ、すごい、前よりもっと素敵なお姉さんだ……」


 胸が真っ平らなこと以外は完全に女の人に見える。元が元だから超絶美形ってわけじゃないけど、感じがよくて品がよくて素敵なお姉さんだ。こんな人に微笑みかけられたら、確かにころっと行っちゃいそう。

 咲さんが輝く瞳で言った。


「どうですか!? 目覚めましたか!?」

「目覚めませんよ!」


 自分から進んで女装することは絶対にないからな!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る