完全にバレて恥ずかしい
三人で、とりあえず家に帰りついた。千歳は肩で大きく息をついた。
『疲れたー』
まあ、分裂したらなんとなく疲れそうではある。
『風呂先入らせてくれ、さっさと寝たい』
「うん、どうぞどうぞ」
千歳はさっさとお風呂に行ってしまい、俺と倉沢さんがあとに残された。
「えっと、倉沢さんもお風呂必要な感じですか?」
「いえ、垢とか出ないっすから」
「そうですか」
しかし、倉沢さんしばらくはいるんだよな。布団とかどうしようか……。まあ寝袋あるし、俺がそれで寝ればいいか。
手洗いうがいを済ませ、とりあえず座ろうと思って、俺は座椅子に座った。倉沢さんにも千歳の座椅子を勧める。
「どうもっす」
倉沢さんは風呂場の方をちらりと見て、「千歳さんのお風呂、それなりに掛かるっすよね」とつぶやいた。
「そうですね」
何だ? 倉沢さん、お風呂必要ないんだよな?
「あの、千歳さんがいない間にちょっとお耳に入れたいことがあるっす」
あ、そういうこと。なんだろう?
「うかがいます」
「あの、自分たち、千歳さんの中にいる霊ですけど、いつもは基本的にうとうとしてるんすよ」
「そうなんですか」
「でも、千歳さん本人が悲しいとか苦しいとかのときは、おだやかにうとうとできなくて、苦しいんすよ」
「へえ、連動してるんですね」
千歳の中にいるだけじゃなくて、千歳の状態とも繋がってるのか。
倉沢さんは真面目な顔になった。
「で、千歳さんは、和泉さんに何かあると必ず苦しくなるんで、何もないように気をつけて欲しいっす」
「えっ」
「今の千歳さんがおだやかに過ごせてるの、和泉さんがいるからっすよ」
「え、そうですか……」
千歳にとっての俺の存在。小さくはないだろうと思ってたけど、第三者に、俺のお陰で千歳はおだやかに過ごせてる、と言われるとやっぱり嬉しいものがある。
「何事もないように気をつけます、私も千歳とおだやかに過ごしたいですから」
「ありがたいっす」
倉沢さんは頭を下げ、真面目な顔のまま、また言った。
「あと、千歳さんの意思と感じ方は完全に核の人のものっす、中にいる霊たちの生前の知識や経験はものにしてるけど、中にいる奴らの意思や考えは全然影響してないっす」
「そうなんですか」
じゃあ、千歳の精神はそのまま朝霧の忌み子だった子と思えばいいのかな。じゃあ、人生経験的にはまだ16か17くらい?
そう考えていたら、倉沢さんにすごいことを言われた。
「もし影響されてたら、千歳さんは和泉さんの気持ちにあんなに鈍くないっすよ」
「!?」
え!? 何!? 千歳はわかってないのに倉沢さんはわかってるの!?
「え、え、なんでわかっ……」
「千歳さんの中、人並みに恋愛経験ある霊もいるんす。千歳さんがその辺に影響されてたら、流石にわかるはずなんすよ」
「は、はあ……」
「まあ、だから、がんばってください。千歳さんには秘密にしときますんで」
「秘密にしてください、本当に秘密にしてください」
俺は全力で頭を下げた。
脱衣所のドアが開く音がして、千歳が顔を出した。
『出たぞー! 和泉、次入れ!』
「あっ、ありがとう」
『ワシ髪乾かしたら寝る』
「うん、お休み」
「自分は寝なくて平気なんで、一晩ゆっくり考えるっす」
『うん、がんばれ』
そんなこんなで、その晩はおしまいとなった。……ていうか、俺の気持ち傍から見てたらバレバレなんだ……。恥ずかし……。
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