心残りを整理したい
「申し訳ないっす、大将が近くにいるって思ったら、寝てられなくて、起きてしまって……」
ごつい男性は、身を縮こまらせてまた千歳に頭を下げた。
『いや、そりゃ大将のこと気になるのはわかるけどさ、なんで出てきちゃうんだよ!』
千歳はちょっと怒っている。えーと、この人はやっぱり倉沢静さんなのかな?
男性は俺の方を向いた。
「大変申し訳無いっす、倉沢静という者っす。和泉さんには大変お世話になってるっす」
あ、やっぱりそうなんだ。
「こ、これはどうも……えっと、さっきの店のご主人を見て出てきちゃったと?」
「そうっす、我慢できなくて……申し訳ない」
『こいつ、相楽屋の大将のことが心残りなんだ』
千歳が倉沢さんを指差した。
「心残り? どんな?」
『えっと……まあ……いろいろ』
千歳はなぜか言葉を濁し、倉沢さんもうつむいてしまった。
『えっと、とにかく心残りがどうにかならないと、こいつ何かのはずみにワシから出てきちゃうと思う』
「申し訳ないっす……」
倉沢さんはまた小さくなった。
「そうすると、倉沢さんは店のご主人に会いたい感じですか? 店すぐ近くですし戻りましょうか?」
倉沢さんは驚き、ぶんぶんと首を横に振った。
「い、いえその、死んだ人間がそのまま出てきたら驚かせちゃうっす」
それはそう。でも相楽屋のご主人になんか心残りなんだろ?
「心残りについて、具体的にお聞きしてもよろしいですか?」
『……え、ええと……いろいろ……』
「ひとつずつでいいですから」
『…………』
倉沢さんは苦悶するような顔をし、『……いや、その、うまく言えないっす……』とため息のように言った。
「整理できてない感じですか?」
『そ、そうっす。大将に心残りあるんすけど、何すればスッキリするかわかんないっす』
「そうですか」
うーん、整理する時間を作ったほうがいいのかな。確かに、いきなり殺されて、知ってる人に心残りあるとして、具体的に何をどうしたら心残りがスッキリするかなんてよくわかんないかも。
「ええと、そしたら、ご主人に会うとしても日を改めましょう。いったん家に帰って、倉沢さんは具体的にどうすれば心残りがなくなるか、整理してみてください」
完全にトラブルだから、南さんにも相談しないといけないしな。
「了解っす」
倉沢さんは頷いた。千歳が訝しげに倉沢さんを見た。
『お前、整理してどうにかなるもんなのか?』
「……が、がんばるっす」
『まあ頑張ってくれなきゃ困るけどさ』
「千歳、一応、南さんにも状況を話したほうがいいと思う。困った時相談することになってるし、何かいい案くれるかもしれないし」
『わかった、LINEしとく』
そう言う訳で、俺達は二人から三人になり、家に帰ったのだった。
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