昔と今を学びたい
前お世話になってた病院行って、インフルとコロナのワクチン打ってきた。副反応はきついだろうけど、だからこそ土曜の朝イチに打った。土曜と日曜で何とか治す作戦だ。
だが予想に反して、大きく体調を崩すこともなく、俺は普通に千歳とお昼ごはんを食べられた。
『熱出てないのか?』
「ちょっと高めだけど、まあ微熱くらいかな……割と元気」
俺はコンソメスープをすすった。
『そっか、よかった。じゃあさあ、教えてほしいことがあるんだけど、聞いてもいいか?』
「ん? 何?」
『ボカロってなんだ?』
「え、好きな惣菜発表ドラゴン知ってるのに?」
あれこそボカロ曲だが?
千歳はきょとんとした。
『ん? ボカロって漫画かアニメのキャラじゃないのか?』
立ち絵だけ見たのか?
「確かにイラストはあるけども……基本はプログラムだよ、歌詞と音程を入力するとその通り歌ってくれるソフト」
俺は千歳にボカロの概要を説明した。正式名称はボーカロイド。ボーカル+アンドロイドの造語で、初音ミクが一世を風靡して今なお現役なこと。初音ミクの後継や類似ソフトも数多く作られていて、自分の声もボーカロイドにできること。
『歌うだけなのか』
「だけ、じゃないよ。自分で声出せなくても、自分の思う通りに歌わせられるのがすごいんだよ。昔ボカロで曲と歌作ってて、今ミュージシャンやってる人たくさんいるからね」
『へえー』
「ミクが出てからもう17年なんだなあ、嫌いじゃなかったけど苦労したなあ」
感慨に浸りつつ呟くと、千歳が首を傾げた。
『え、何に苦労したんだ?』
「えーと、当時はニコニコ動画ってサイトでボカロ曲が流行ってたんだけど、俺が中学生くらいの頃はボカロ曲の地位が低くてね。でも、オタクであればあるほど熱狂的なファンがいて」
『うん』
「俺放送委員で、同じ学年の子がすごくボカロ曲を流したがって、でも先生は大反対だったんだ」
今はそんなことないんだろうなあ、時代は変わった。ありがとう、ハチこと米津玄師。
千歳は、ピンと来たような来てないような顔をした。
『昔のロックみたいな扱いだったのか?』
「ん? 昔のロックって迫害されてたの?」
『若い奴は好きで、年寄りは嫌いって感じ』
「あー、そんなだと思ってくれればいいかな。で、俺は仲裁に困って、その子が流したがってるボカロ曲のオルゴール版なんかを探してきて、先生にこれならどうですかって聞いて、なんとか許してもらって」
『へえー』
人気曲であれば、それなりにアレンジを作っている人がいたのだ。当時のニコ動はすごかった。
「で、そうやってアレンジ版探して仲裁するのが、放送委員やってる間ずっと続いた」
それなりにアレンジ曲はあったが、いくつもいくつも探してダウンロードとなると大変だったのだ。
『え、お前ずっとそんなだったのか』
千歳は目を丸くした。
「その子がどうしても本物のボカロ曲流したがってねえ……オルゴール版とかジャズ版なら先生も折れるんだから、自分で探してきて欲しかったけど」
『そいつに探させりゃよかったのに』
「俺が探さないと、先生とその子がずっと喧嘩で、委員会の時間が終わらなかったんだもん」
『苦労性だなあ、お前』
「そうかも」
俺は苦笑いした。
仲裁とか苦労を背負い込むとかは、すぐヒステリーを起こしてゴネる母親をなだめてたらどうしても身についてしまった。新卒で入った会社で潰れたのも、昭和の悪いところ詰め放題な上司と周りの仲裁ができてしまう、苦労を背負い込む人間だったからかもしれない……。
でも、今は潰れないように気をつけなきゃな。仕事環境に恵まれてるのもそうだけど、ずっと一緒にいて、大事にしたい人がいるもんな。
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