番外編 金谷千歳の思いつき

 ワシは夕飯の献立で悩んでた。玉ねぎの残りを使っちゃいたいんだけど、どうしようかな。

 あ、ポン酢炒めにしよ。倉沢静の行きつけだった定食屋兼飲み屋、相楽屋のメニュー。玉ねぎとナスと豚こまをごま油で炒めてポン酢で味付けするだけだし、あれでいいや。

 夕飯作って食べた後。ワシは、相楽屋はまだあるのかなと気になって、Googleマップで探してみた。あっ、まだある! しかも割と高評価だ!

 倉沢静が34歳で死んだのは昭和の終わりだ。36年もよく続いたなあ、もう代替わりしてるのかな? 今、どんな店なんだろ?

 ……和泉を誘ったら、一緒に食いに行ってくれないかな?

 和泉もワシも風呂を済ませてソファに落ち着いた後、ワシは和泉に聞いてみた。


『なあ、ワシが奢るから、今度一緒に来てほしい定食屋があるんだけどさ』

「ん? どこ?」


 和泉は意外そうに顔を上げた。


『東京の、足立区にある、相楽屋っていう定食屋』

「おいしいところなの?」

『まあまあ。でもうまいから行きたいんじゃなくてさ、倉沢静の行きつけの店で、それがまだあったから今どんな感じか見に行きたいんだ』

「え、そうなの?」


 和泉は少し驚いた。


「ていうか、倉沢静さんってどこのどういう人なのか、俺全然知らないんだけども」

『んー、東京のヤクザの用心棒で、昭和64年の1月の初めに殺されてる』

「ええ!?」


 和泉は目をまん丸くした。


「本当にヤクザだったの!? え、ていうか昭和って63年までじゃなかったっけ?」

『絶対64年だ、昭和天皇が下血したってずっとテレビでやってた』

「ええー、どういうこと……?」


 和泉は困惑して手元のスマホに目を落とし、何か調べてたけど「あ、昭和64年って1月7日まであったんだ」と納得したようだった。


「そんな時に殺されたって、ヤクザの抗争でもあったの?」

『内部抗争で、酒に睡眠薬入れられて簀巻きにされて海にドボン』

「うわあ……」


 和泉はドン引きした。だってガチの肉弾戦じゃ勝てっこない相手だもん、そりゃ薬だよ。


『酒に睡眠薬入れられたのが、多分その相楽屋なんだけど』

「え、そんな因縁のあるところ行って大丈夫?」

『倉沢静は店のこと恨んでない。絶対ヤクザに脅されてやったことだし、ヤクザに脅された一般人じゃ言うこと聞くしかなかったって思ってる』

「物わかりがいい人だね……」

『まあ脅したヤクザのことは恨んでて、だから死んだ後怨霊になって自分がいた組で暴れまくって、式神使いに捕まってワシんとこに封印されたんだけど』

「なるほど」


 和泉は頷いた。

 ……和泉に言ったら、絶対に倉沢静が目覚めて暴れるから言わないけど。倉沢静が店を許してるのはそれだけの理由じゃないんだよな。

 倉沢静、店の大将のこと好きだったんだよ。自分は男で大将も男だけどさ、そういう人間だったんだよ。

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