番外編 南さやかの決断

 狭山さんにも詳細を聞いたけど、これは本当に司さん、私が金谷家が嫌で尼になったと考えてるな……。別に尼だからって絶対独身を貫くわけでもないんだけど。

 とりあえず司さんに「今度お時間があったらお会いできませんか、誤解があるみたいなので」と連絡してみた。そしたらすぐ返信が来て、翌日喫茶店で会うことに。

 私は、先日の金谷家での騒ぎを無理やり狭山さんから聞き出したことを詫びて、こう言った。


「ええと、司さんは私が金谷家を嫌って尼になったと思ってるみたいですけど、本当に違うんです。本当に煩悩が強すぎて結婚に向いてないって思ったせいで、嫁姑の相性なんて全然考えてなくて」

「そ、そうですか」


 司さんは戸惑っていたが、やがて暗い顔になり、「今さら言われてもな」と呟いた。


「別にだからどうしろってわけじゃないですけど、私はさやかさんのこと好きでした。今でも。その好きな人を、私は幸せにはできないんだなってずっと思ってて。でも誤解って言われても、この10年以上ずっと結婚は無理だってやってて、今さら……」


 司さんはうつむいてしまい、私は困った。うーん、多分これ、私が尼になった理由を誤解してたせいで、私の後にあった結婚チャンスも全部ふいにしてるよね司さん。せ、責任を感じてしまう……。

 ……ん? いや、今のこの状況、告白されてる? しかも、私が押せば結婚まで行く?

 え、私、結婚なんてしないだろうと思ってもう32だけど、ここから入れる結婚ルートが!?

 ど、どうしようか……。いやでも、そういえば私は金谷家嫁姑問題に出せる強力なカードを持ってるんだよな今は……。

 いろいろな考えが頭を巡った末、私は口を開いた。


「……縁談の話出た時はそうでもありませんでしたけど、私、今は割と素質のある方で、有事の時は前に立って対応するのに割り当てられる人間だから、そっちのほうでいろんなところで存在意義を見いだしてもらえるし、後方支援の金谷家には強い立場で出られるんですよね」


 私が管狐を操る才能があると気づいたのは、尼になってからなのだ。


「それはまあ、そうですけど」


 司さんは、私が何を言いたいのかわからない顔で頷いた。


「だから、神主の奥さん業は無理ですけど、尼のままでいいなら、その、とりあえずお付き合いしてみて将来を考えてみるとか、どうですか」

「え!?」


 司さんは驚きのあまり、椅子から立ち上がりかけた。


「い、いいんですか!? いいんですか!?」

「まあ、司さんのことはよく知ってますし」


 仕事で一緒になることはよくあるから、司さんの人となりはよくわかってるのだ。その上で、今の申し出をした。

 司さんはもう泣きそうに感動していた。


「両親にも祖父にも絶対に手出しさせません、私頑張ります!」

「まあほどほどでいいですから、私も別に自分のこと守れないわけじゃないですからね」


 まあ、司さんともし結婚まで行けば、千歳さんと義理のきょうだいになれて接点をさらに持てるかもだし、悪い話じゃないよね。

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