あなたの努力を讃えたい
今日は一日、嬉野さんと外仕事で、俺はうっすら不安だった。また千歳がついてきてないかと思って……。
客先へ向かう途中、嬉野さんに「先日は本当にすみませんでした」と謝ったけど、「大丈夫です大丈夫です、気にしないでください」と笑ってもらえた。
「でもなんで、あの子は和泉さんを誰かと結婚させようとしてるんですか?」
「うーん……話すと長くなるんですけども」
どう話すべきか迷ったが、俺はおばあちゃん向けの説明をベースに嬉野さんに話した。千歳は特殊な生まれで、座敷牢で育てられてたこと、ちょっとした霊能力者なこと、俺と道でぶつかったのを怒って、『子々孫々まで祟ってやる!』とうちに来たこと。
「でも当時私体壊してて仕事もろくにできてなかったんで、自分で末代だって言ったら、子孫を残させるためって言ってすごく身の回りの世話をしてくれて。おかげで体治ったんですけど、とにかく私の周りの若い女の子と私をくっつけたがって……」
「えっ、あの子中学生くらいなのにそんなにがんばってたんです?」
嬉野さんは驚いた。
「あー、あんなですが一応二十歳です、閉じ込められてたんで、情緒的には中学生くらいかなと思いますけど」
「へええ……」
嬉野さんは頷き、そしてはっとした顔をした。
「あの、もしかして、あの子の情緒が幼いから色恋がわからなくて和泉さんは気持ちを伝えてないとか、そういう話ですか」
「え」
俺は動揺した。何!? 嬉野さんと直接会ったの二回目なのにバレるってどういうこと!?
「いや……あの……」
なんとか言い訳しようとしたが、完全に正鵠を射られているので何も思いつかない。
「なるほどなるほどわかりました、応援してますよ!」
完全に得心が行ってる嬉野さんにそう励まされて、俺は「ど、どうも……」しか言えなかった。えー、なんでわかるんだよ、女の子はわかるもんなのか、怖いよー!
客先でのインタビューと撮影は無事に済んで、家に帰ったら千歳の『おかえりー!』が出迎えてくれた。うん、家にいてくれたっぽいな。
『すぐ夕飯にするから、手洗いうがいして着替えてこい』
「うん、ありがとう」
俺は洗面所に行って、着替えて、いつもどおりの夕飯になった。
『今日の仕事どうだった?』
「無難に終わった。インタビュー内容の文字起こしが大変だけど、もう明日に回しちゃう」
『ふーん、よかったな』
千歳は筑前煮を口に放り込み、『そうだ、令和の知識を教えてくれ』と言った。
「どうしたの?」
『今日さ、YouTubeで、アニメの絵みたいな女の子が声に合わせて動きながらゴム手袋して料理するっていうのをはじめて見たんだけど』
YouTube? アニメの絵? 声?
「んー、VTuberかな?」
『そうそれ! あれ仕組みどうなってるんだ!? あれだけのためにアニメの絵たくさん描いたりしないよな!? 全然わからん!』
千歳は身を乗り出した。そうか、千歳はアニメの絵とバーチャルで動かすモデルを同じと思ってるのか。
「あー、あれはアニメと言うか……いや技術としては重なるところもあると思うけど……」
VTuberについて、俺は千歳にざっくり説明した。2Dモデル・3Dモデル・トラッキングの概念、配信、ゲーム実況、スパチャなども。
「まあ、CGの着ぐるみ着たアイドルというか芸人というか。平成からいるよ」
『そ、そんなに前から……?』
千歳は愕然とした。
「YouTube見てても、そういう概念知らないとなかなか行き着かないもんね。今日初めて見たの?」
『うん、料理系の見てたらおすすめに出た』
「なるほど」
『ありえないくらい料理下手だったんだけど、そういうのが令和ではウケるのか?』
うーん、令和に限らないんじゃない?
「平成でも、通りすがりの人の料理下手を笑うテレビ番組はあったからね……まあ、アイドルとか芸人みたいなものだから、普通から逸脱したことがウケやすいのかも」
『なるほどー』
千歳は頷いた。
「逆にすごくうまいとかでもウケやすいんじゃないかな、探せばそういう人もいるかもね」
『あー、見たのはさ、料理できるVTuberが下手なVTuberに教えてるんだけど、下手な方ができる方の想定以上にむちゃくちゃやらかすから、教えてる方とコメント欄が阿鼻叫喚、みたいな感じだった』
「……それ、ちょっと面白そうかも」
ニコ動なら弾幕張られるやつじゃん。
『そうか芸人か、下手でもうまくても面白くできればいいのか』
千歳は納得したようだった。
……あ、そうか。千歳は、大人になるための、令和向けに自分を更新する、を真面目にやってるのか。
たまにやらかすことはあっても、千歳は素直に言うことを聞いて、努力してるのか。そうか……。
……今日、お土産に甘いもの買ってきてあげればよかったな。いや、甘いものはいつあげても千歳喜ぶと思うし、時間見つけてなんか見繕おう。
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