気づいてくれたら伝えたい
本当にしくじったなと思っている。千歳には絶対隠し通しておきたかったことを、絶対に知られてはいけないと思っていたことを、半分知られてしまったから。
せめて、その好きな人が千歳本人だということは隠し通さないと。でもなんだかんだ言って千歳は聞き出そうとしてくるだろうからなあ、どうすればいいんだろう……。
そんな事を考えつつ仕事していると、千歳が星野さんちから帰ってきた。
『ただいまー!』
「あっ、お帰り」
千歳(朝霧の忌み子の姿)はでかいビニール袋の中身を見せびらかしに来た。
『みかんとナスもらってきた! みかん、夜のデザートに食べよう!』
袋の中には、まだ少し青いみかんと、立派に太ったナスがたくさん。
「うん、ありがとう」
とりあえず今は好きな相手について聞かれないで済みそうだな、と思ったんだけど、予想を裏切って千歳はまたそのことを口に出した。
『なあ、ワシがもっと大人になったら、お前が好きな人のこと教えてくれるか?』
「えっ、どうしてそんなことに」
『星野さんに相談したら、ワシがもっと大人になったら和泉は教えてくれるかもって!』
「え、ええー……」
千歳がもう少し精神的に大人になったら。それは喜ばしいことなんだけど、色恋については正直、今の精神年齢でもわかりそうな気がするしなあ。だから、千歳は子どもか大人かに関わらず、色恋をやるのがわかんないタイプの人なんじゃないかなあ。
何と答えるべきか迷った挙句、俺はこう言った。
「……千歳が大人になって、気づいてくれるなら嬉しい」
『えっ、大人になったら気づくような人なのか!?』
千歳は目をまん丸にした。
「さあ、気づかない人は大人でも気付かないみたいだから」
『ていうか、なんでワシが気づく前提なんだよ! ワシが大人になったら教えろ!』
千歳は抗議した。
「その辺は黙秘権を行使します」
『ちぇー。ていうか、何ができるようになれば大人って認めてくれるんだ?』
「それはまあ総合的な判断だけども」
俺は、嬉野さんの件を思い出して、千歳にちょっと釘を差しておきたくなった。
「まあ、人の恋路にむやみに口を出す人は、あんまり大人じゃないかなー」
そう言うと、千歳はむくれてしまった。
『いじわるー! ワシ何もできないじゃないか!』
「代わりに大人になるのをがんばってください」
「いじわるー!」
しょうがないじゃん。千歳が色恋に気づいてくれたら嬉しいけど、千歳と色恋をするにはもう少し大人になってもらわないとダメだし。それに、千歳が大人になったからと言って色恋に気づく保証はないし。そういう言い方しかできないんだよ。
だから俺は、千歳が気づいてくれたらいいなと思いながら、これからもずっと千歳と一緒にいるよ。
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