番外編 星野茜の洞察
『……って言うわけで、和泉、好きな人がいるのにその人のこと何も教えてくれないんだ。誰なのか全然見当もつかないんだ。どうすればいいんだろう?』
千歳ちゃんがうちに相談に来て、そんな事をいうので、私はどうしていいか困ってしまった。
そりゃ和泉さんだって好きな人くらいいるだろうと思うけど、色恋がわからない相手だから気持ちを伝えないっていうのは……まあ、そういう選択もあるしねえ、あんまり深入りしない方がいいんじゃないかと思うけど。
「千歳ちゃん、本当に相手に心当たりないの?」
千歳ちゃんは困り果てた顔をした。
『全然まったくない。和泉は相手のこと結構知ってるっぽいけど、ワシは本当に全然わからない』
「そうねえ、少なくとも、気持ちを伝えたら関係がギクシャクするって予想してるわけだしねえ……」
和泉さんが相手のことをよく知っていて、現時点ではいい関係があって、で、その相手は色恋がわからない……。
……ん?
私は、向かいに座る千歳ちゃんをまじまじと見た。今の千歳ちゃんは中学生くらいに見えるけど、戸籍上は二十歳だと聞いてる。
和泉さんは千歳ちゃんのことをよく知ってるし、仲良し。で、千歳ちゃんと私はよく話すけど、恋愛話はまったく聞いたことがない。
……あ、これは……。
「え、えーとその、和泉さんは相手との関係を崩したくないわけだし、無理に聞き出すのはかわいそうだと思うわ」
『でも、付き合い長いんだからワシにくらい教えてくれたっていいのに』
千歳ちゃんはふくれた。
「そうねえ……和泉さんが千歳ちゃんに話して大丈夫かな、って時が来たら、教えてくれると思うわよ」
『そうなのか? どうすればそんな時が来る?』
千歳ちゃんは身を乗り出した。
「それは……和泉さんの判断だからねえ。でも、和泉さんが決心したら、きっと教えてくれるわよ」
『どうしたらあいつに決心させられる?』
「う、うーん……まあ、千歳ちゃんがもうちょっと大人になったら、かしらねえ」
千歳ちゃんが精神的にもうちょっと大人になったら、色恋もわかるかも、と思うけど……でも、大人になっても色恋うとい人もいるから、その辺りは賭けねえ。
『じゃあ、ワシこれまでどおりに大人になるの頑張って、和泉がワシのこと大人だなって思ったら教えてくれるかなあ?』
千歳ちゃんが目を輝かせるので、私は返答に窮した。
「ま、まあ……千歳ちゃんが大人になって、その上で和泉さんが決心したら教えてくれると思うわ」
そうとしか言いようがないわ。和泉さんが決心してくれるかどうかは、全然わからないけど……。
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