番外編 金谷千歳の詰問

 和泉は、「この話はおしまい」と言ってから何もなかったみたいに優しくしてくれたので、ワシは少し落ち着いた。

 で、落ち着いたから、ワシは和泉に好きな人がいるってことを改めて思い出した。

 誰? そんな人、全然心当たりないぞ? いつ好きになったんだ?

 しかも、和泉は気持ちを相手に伝える気はないらしい、その相手は色恋が全くわかってないから。どういう人なんだ?

 翌朝、和泉と朝飯を食いながら『なあ、お前の好きな人のこと、どうしても教えてくれないのか?』と聞いてみた。和泉は困り果てた顔をした。


「その……その件に関しては黙秘権を行使します」

『なんで?』

「言わないほうが絶対いいから。千歳以外にも基本言いません」

『じゃあ教えてくれなくてもいいけど、告白はしろよ! 色恋に興味ない人でも、改めて好きって言えば意識してくれるかもしれないぞ!』


 和泉はすごく優しくていい奴なんだから、それに好きって言われて悪い気はしないって!

 和泉はじっとワシを見て、何か考えてるみたいだったけど、ぼそっと言った。


「……いや、無理だよ」

『やってみなきゃわかんないだろ!』

「言って、ギクシャクするようなことになりたくないんだよ。絶対そうなるから」

『むー……』


 ワシはむくれてしまった。


『いくじなし!』

「なんとでも言って、何言われても俺は黙ったままでいるから」


 和泉は、何も堪えてない顔で味噌汁をすすった。

 うーん、和泉の好きな人全然わかんない。色恋に興味なくて、色恋を伝えたら関係がギクシャクする相手。和泉は割と相手のこと知ってそうだな、というのはわかるけど、そこまで深く付き合ってる人、全然わかんない。

 ……誰かに相談してみようかなあ。

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