普通にできればそれでいい

 嬉野さんとの仕事が増えた。なんでかと言うと、俺が嬉野さんの指導係になったから。クライアントからのヒアリング、検索キーワード指定の仕方、構成案作成のためのリサーチ法、校正の仕方と、教えることはたくさんあるけど、ちゃんと飲み込んでくれる人だからうまくいくと思う。

 で、さっきまで嬉野さん同席で、Google Meetでクライアントからの聞き取りをしていた。クライアントからのヒアリングのやりかたを嬉野さんに実際に見せるためである。

 クライアントが退席した後、俺は嬉野さんに話しかけた。


「どうでした?なんとなく感覚は掴めました?」

「はい、なんとなくですけど……あと、こちらからの提案もとても大事なんですね」

「そうですね、相手にもよりますけど、聞き取ってて「この方がいいかな?」って思った時はそう聞いて見るようにするといいと思います」

「でも、聞きながらそう言う思いつきが出来るまでに経験が必要そうだって思いました」


 嬉野さんは自信なさそうに言った。うーん、別にそういうわけでもないんだけども。


「いや、私も聞き取りの経験そこまであるわけじゃないですからね。提案に必要な経験は、SEOを深く知ることとか、キーワード指定の経験とかじゃないかな。その辺も教えますし、SEOはもう嬉野さんよく知ってるでしょう」

「なるほど……」


 嬉野さんは真面目な顔で頷いた。


「キーワード指定もこれから教えていきますからね、慣れれば難しくないですよ。クライアントからこのワードでって希望されることもありますし」

「でも、それだとサブキーワードの設定が難しいんじゃありません?」


 サブキーワードとは、検索キーワードで検索しようとした時、合わせて出てくる単語のことだ。


「よく気づきました。まあそこも慣れですれど、ちゃんと教えますから」


 俺は嬉野さんを安心させようと笑ってみせた。嬉野さん、真面目だし真剣だけど、それ故に笑ったところ見たことないんだよな。

 そんなこんなでリモート打ち合わせが終わった後、俺はワクワクした千歳に大いに問い詰められた。


『どうだ!? 嬉野さんは好みか!? お前が惚れられそうな女か!?』

「だから嬉野さんにそういうの期待するのをやめなさい」


 俺は千歳をたしなめた。


『まあ、直接会ってみないと何とも言えないか』

「直接会ってもそう言うのにはしないから!」


 とは言え、直接会う機会は近い。嬉野さんの歓迎会兼社員の顔合わせあるし、あと、直接打ち合わせを希望してるクライアントのところに嬉野さんを伴って行く可能性も高い。

 千歳が変に興奮しないといいんだけど……。俺は嬉野さんのよき先輩でいられれば、それが一番なんだけど……。

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