この失点は取り返せない
南さんの車に乗せてもらえたのはありがたかったのだが、千歳は程なく眠り込んでしまった。相当疲れてるな。
俺は運転席の南さんに聞いた。
「千歳、休ませるだけで大丈夫ですか? 何か、治療とか必要じゃありませんか?」
「基本はよく寝かせてあげてください。あとは……起きたらとてもお腹を空かせているかもしれません。千歳さんは神道寄りの存在ですから、白米をたくさん食べさせてあげるといいと思います」
「白米?」
家に米くらいあるけど、お米にそんなに特別な力があるの?
「神道で、一番いいお供え物って白米なんですよ。だから、神道の神様がお腹空かせてるときには、白米がとりあえずおすすめかな、と」
「なるほど……」
じゃあ、千歳は家に帰っても寝てそうだから、布団に寝かせたらお米を炊くか。
案の定、千歳は家に帰っても起きなかったので、俺は南さんに手伝ってもらって千歳をおんぶし、家に入って布団に千歳を寝かせた。
……こんな時にこんなこと考えちゃいけないんだけど、いま千歳女の子の格好だから、おんぶすると背中にこう……胸を感じてしまうんだよなあ……ごめん……。
とにかく、千歳にはいくらでも寝てもらうことにしよう。あと、お米を炊こう。南さんにお礼を言うと、「いえ、何でもありませんよ、お二人が仲良くて良かったです」と言われた。まあ、俺と千歳の関係が良ければ、千歳は寂しくなくて暴れないもんな。
お米を研いで、炊飯器にセットして。俺はやっと一息ついた。
「……さっきのこと、相当騒ぎになってるんだろうな……」
横浜駅を覆う謎の黒い物体出現、体調不良者多数。テロさえ疑われる相当なニュースだ。ていうか、俺が飛んで千歳を説得して縮んだところとか、スマホで撮られてたら相当まずくない!?
怯える心を抑えながら各種SNSをチェックしたが、意外にも動画はほとんどなく、画像も千歳の一部を捉えた断片的なものしかなかった。SNS内をいろいろ検索して調べた所、どうもさっきの巨大千歳を見た人は早々に霊障で体調不良になり、スマホを構えるどころではなかったようだ。
となると、霊障から人々が回復したか気になるのだが、「黒いのが消えたらいきなり楽になった」と言う意のコメント多数で、こちらもとりあえず大丈夫そうだ。救急車の発進はかなりあったそうだが、それはもう、ごめんなさい……。
となると、咲さんも一時的ながら霊障にやられたかな? やっと一息ついたところだ、咲さんに安否確認のLINE送っとかないと。
俺は咲さんに、「大丈夫でしたか? 帰れましたか?」と送り、千歳が誰かに変なものを仕込まれて爆発しそうになって巨大化したことと、それは解決したけれど周りに霊障を引き起こしてしまったことを説明した。
咲さんからは、すぐ返事が来た。
「まだ家には帰り着いてませんが、私は霊障とかなくて、大丈夫でした」
あ、よかった。咲さんに霊障ないっていうのは、化け狸の血を引いてて防御力高いとかかな?
しかし、次の咲さんからのLINEに、俺は、やってしまったと思った。
「異常事態に、私のそばにいてくれるんじゃなくて、他のもっと大事な人の所に駆けつける人とは、もう付き合えません」
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