君のところへ駆けつけたい

 東口に行ったのは、千歳の待ち合わせだった東口の方で何か起こったからじゃないかと思ったからだ。あと、東口の方には緑さんと南さんもいる、何か事情を知ってるかもしれない。

 東口から出る階段辺りまでつくと、何人も人が倒れていた。え、どういうこと!?


「和泉さん!」


 緑さんの声だった。緑さんと南さんの二人が、こちらに駆け寄ってきていた。ふたりとも息を切らしている。緑さんが俺に聞いた。


「和泉さん、なんでいる……いや、いてくれてよかったんですけど、なんで平気なんですか!?」


 え、俺が平気だとなんかまずいの? いや、ここ人が倒れるような状況ってこと?


「平気ですけど、一体何があったんですか千歳に!?」

「私達も全然わからないんですけど、千歳ちゃん霊気を撒き散らしながら飛んで大きくなっちゃったんですよ! で、周りの人たち霊障でやられてます、私たちもけっこうしんどくて」


 霊障って、そんなのもあるの!?

 しかし、霊障に俺がやられてない理由には心当たりがあった。


「私が平気なの、これのおかげじゃないですかね」


 俺は左手首を2人に見せた。千歳が作ってくれたお守り組紐が巻いてある。


「千歳が作ってくれたお守りです、これが効いてるんじゃないでしょうか」


 南さんが目を見開いた。


「そんなに効くの……」

「ちょっと見せてください」


 緑さんが俺の左手首を掴んだ。


「なるほど……和泉さんに害をなすものは全てキャンセル……和泉さん認定するのは、この輪っかの中にあるもの……」


 緑さんは何か考えているようだ。


「和泉さん、お願いがあるんですが、千歳ちゃんのためです」


 この騒ぎをなんとかしろってことだろう。


「何でもします、千歳のためなら」

「千歳ちゃん、また何か仕込まれて今みたいになってるんだと思うんです。で、和泉さんのこのお守りはとても強いです、千歳ちゃんの元々の抵抗力に合わせてこのお守りを使ったら、千歳ちゃんに仕込まれたものはキャンセルされるかもしれません」

「でも、このお守り、ずいぶん固く結んじゃったから取れません」

「取らなくていいんです。このお守りの輪の中に、千歳ちゃんの一部だけでもいいから入れて、千歳ちゃんの害は和泉さんの害だって強く念じてください。そしたら、一時的にですけどこのお守りは千歳ちゃんを和泉さん認定して、千歳ちゃんにも効きます」


 な、なるほど……いや、今の千歳はクソデカだけど!? 一部だけでもって言っても、どう入れれば……。

 いや、千歳は話が分かる人だし、わりと体の一部を加工できるから、今のことを話せば体の一部だけ俺のお守りの輪の中に入れるくらいしてくれるはずだ。


「千歳に、今のことを話して、体の一部をお守りの輪の中に入れてもらえばいいわけですね」

「そうですけど、まず千歳ちゃんに近づかないと」


 それはそうだ! どうしよう、どこかのビルの屋上にでものぼるか?


「あの」


 南さんが片手を上げた。


「うちの狐たち、飛べるんです。狐たち、和泉さんのお守りに触れながらなら、この中でも動けると思います。和泉さん、狐たちにしっかり巻き付かせるんで、千歳さんのところまで狐たちで飛んでくれませんか?」


 おっ、飛ぶ手段あるのか!


「飛びます。どうやればいいですか?」

「今狐たちを出すので、方向指示は指差しでやってください」


 南さんが片手をふわっと動かすと、俺の周りを風が取り囲んだ。左手首が特に涼しく感じる。なるほど、この風っぽい狐さんはみんな俺のお守りを触ってるのか今。

 俺の体は、風に合わせてふわっと浮いた。


「じゃ、行ってきます! 狐さん、とりあえず、上に!」


 俺の体はひゅーんと上空へ飛んだ。下を見ると怖くなりそうだったから、ひたすら千歳の黒い体を目指した。

 えーと、あっちの細くなってるのは多分千歳のしっぽだな、目と口と耳があるのは逆方向だ。

 そしたら、目口鼻があると思しき方向から、千歳の悲鳴が聞こえた。


『もうやだよう! 痛いよう! 助けて!』


 千歳が苦しんでる、じゃあやっぱりこれは千歳の本意じゃなく、多分何か仕込まれて異常が起こってる!


「狐さん、あっち運んでください!」


 指さした方向に、俺の体はすっ飛んでいった。

 千歳の泣き声が響く。千歳の口らしき、裂けた部分が見えた。泣いている目も。よし、千歳が俺を視認できる所まで来た!


「千歳!!」


 俺は、あらん限りの大声で千歳に呼び掛けた。

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