番外編 狭山咲の苦闘

 和泉さんちに近い駅の駅ビル、改札前で和泉さんと待ち合わせした。

 人混みの中から「こんにちは!」と手を挙げた和泉さんは、中折れの麦わら帽を被っていた。あ、これ、misskeyで和泉さんが「同居人が麦わら帽子買ってくれた!」って言ってたやつだ、たぶん。

 和泉さんが自分の顔を指さした。


「あの、選んでもらう服に負けないようにって思って、こないだ教わったメイクしてきたんですよ」

「あ、本当ですね!」


 自分が教えたことを素直に実践してくれてるのは、すごく嬉しい。和泉さんは私に歩みよろうって気はすごくあるんだよなあ、千歳さんの存在がクソデカなのを自分で気づいてないだけで。

 私は和泉さんの手を取った。


「じゃあ、今日は主にユニクロとGUで探しますね!」

「え、そんなところでいいんですか」


 あ、もっと高いところで買わされるかと思ってたんだ。


「高すぎるのじゃ続きませんから! お手頃価格で工夫するのがコツですよ」

「な、なるほど」


 和泉さんには継続的に似合うもの着てほしいし、続かなきゃ意味ないわけ。

 そういうわけで、まずはユニクロまで。私は和泉さんに説明した。


「和泉さんはブルベ夏で骨格ウェーブだから、トップスはジャストサイズ、ボトムスはスキニーとかクロップドがおすすめなんですよね」


 和泉さんは、なんだか申し訳無さそうにした。


「すみません、ブルベ夏は調べてきたんですけど、骨格ウェーブっていうのはどんなのですか?」


 あ、わかんないか。


「上半身が薄めで下半身はそんなでもなくて、全体的に柔らかめな感じの骨格ですね。下半身がそんなに薄くないから、足首出したりスキニーにしたりするとバランス取れるんですよ」

「へえー」

「ユニクロではジャストサイズのトップス買いますね。ブルベ夏は寒色系のパステルカラーが合うし、寒色系は夏っぽいから、そういうの選びましょう」


 そういうわけで、私達はかごを片手にメンズコーナーのシャツが置いてある場所へ踏み入った。和泉さんがシャツの一つに目を留めて言う。


「すみません、これとかどうですかね」


 和泉さんが指差すのは、ペパーミントグリーンのカットソーだった。


「あ、いいですね! 着てみます?」

「いや、サイズは合ってるから、もう買っちゃいます」


 和泉さんはかごにカットソーを放り込んだ。私は水色とラベンダーのボタンダウンシャツを選び、和泉さんに試着してもらった。


「どっちもすごく似合いますよ!」

「えっと、じゃあこの2つ買います」


 お会計の後、GUに移動して、今度はボトムスを見繕った。紺色のスキニージーンズと水色のスリムジーンズを試着してもらい、よく似合ったので2つとも買った。


「ねえ、今買ったのもう着ていきましょうよ!」

「え、試着室とか使っていいんですかね?」


 店員さんに聞いてみたら快諾をもらったので、私は和泉さんを試着室に押し込んだ。しばらくして、和泉さんは鮮やかなペパーミントグリーンのカットソーに紺のスキニージーンズで出てきた。


「こんなんでいいですかね?」

「すっごくいいです!」


 その後、近くのイタリアンレストランでお昼を食べて、駅ビルでウィンドウショッピングを楽しんだ後、解散となった。和泉さんは楽しそうだったし、私はけっこううまくいったと思ってたんだけど、帰りにふと気づいた。

 和泉さん、misskeyに「同居人はチョコミントが大好きです」って書いてた。で、ペパーミントグリーンって、チョコミントの商品によく使う色。で、今日和泉さんが一番積極的に選んだのは、ペパーミントグリーンのカットソー。

 ……くそー!!千歳さんの存在がクソデカ!!

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