番外編 朝霧緑の推定

 千歳ちゃんからLINEで近況を聞いている。和泉さんと狭山くんの妹がくっついたのは狭山くんから聞いてるけど、千歳ちゃんから見たその辺の話も知りたいので、詳しく話を聞いている。


『それでな、咲さんの趣味って男を女装させることだったんだ!』

「和泉さんも女装させられてたの?」

『すごくすてきなお姉さんになってた』


 ど、どんなことになってたんだろう……和泉さん、よくも悪くも普通の見た目の男性だけど、やせてるから似合ったのかなあ。


「千歳ちゃん、列整理なんてさせられて大変だったわね」

『よくわかんないでやってた、あとでほめられたからよかったけど』


 そりゃ、よくわかんないでしょう、女装版コミケみたいなのなんて……。コミケ、趣味や技術系のは一度覗いたことがあって、割と楽しかったけど、下調べも大変だったからなあ……。


『それでさあ、余計訳わかんなくなっちゃったことがあるんだけど』

「どうしたの?」

『あいつ、大事な人がいるって前々から言ってて、でも恥ずかしいって言ってワシにそれが誰か教えてくれないんだ』

「そうなの?」

『あいつ、自分の父ちゃんがワクチン反対って言ってるのに自分だけワクチン打ってるって暴露して炎上させたとき、その後始末に、今は祖母と大事な人にエネルギーを使いたいから、って言ってたんだけど、その大事な人が誰か教えてくれないんだ』


 和泉さんが両親と不仲ということは調べがついている。狭山くんからもある程度話は聞いていたから、悪霊の件のときのことか、と察しはついた。

 うーん、あの頃なら、もう文脈的に、それは千歳ちゃんのことなんじゃないの?

 でも、和泉さんは、それを千歳ちゃんに知られるのが恥ずかしいわけか、じゃあ指摘しないであげたほうがいいかな?


「和泉さん、どうしても教えてくれないんだ?」

『うん。一人、この人かなって思ってたのがいたんだけど、違ったんだ、あいつスマホに女の子の写真入れてたんだけど』

「あら」

『大事な人ってこの人かなと思ってたんだけど、その女の子と和泉が女装したところがそっくりで』

「え!?」

『即売会が終わった後の打ち上げで詳しく聞いたんだけど、なんで咲さんが和泉に目をつけたかっていうと、和泉が高校生の時に文化祭で女装してメイドしたのがすごく似合ってたからなんだって。で、その時の写真だよって和泉が見せてくれたのがその女の子だった』


 な、なんつーオチ!


「じゃ、単に和泉さん本人の写真だったってこと!?」

『うん。一緒に文化祭で頑張った人が撮ってくれたのだから、なんとなく消せなかったんだって』


 そんなに女装似合うんだ、和泉さん……え、ちょっと見たくなってきたな……。

 しかし、ということは。


「ああ、だから、千歳ちゃん、和泉さんの大事な人はまだわからないままなのね?」

『うん。どうすれば教えてくれるかなあ』


 どうもこうも……和泉さんが大事にしてるのは絶対千歳ちゃんだけども。じゃなきゃ、千歳ちゃんをかばって想像を絶する激痛に飛び込んだりしないでしょ。

 うーん、どうしようか。


「和泉さんの大事な人知って、どうしたいの?」

『うーん……知りたいだけだけど……あいつの大事な人なら、やさしくするかな。あいつの楽しいこと増やしてやる年間、まだしてるし』

「楽しいこと増やしてやる年間?」

『あいつ、体悪くて、親とも仲悪くて、友達もずっといないって人生だったから、何かあったらすぐいなくなりそうで心配なんだ。だから、楽しいこと増やしてやるんだ。あいつ、体はよくなったし、友達も2人できたから、まあまあ成功してると思うけど』


 確かに、和泉さんはかなり辛い人生を送ってきたみたい。そして、千歳ちゃんは和泉さんが悪霊にさらわれたとき、我を忘れて追いかけて悪霊を攻撃するくらい、和泉さんのことが大事だ。


「うーん、そうねえ、千歳ちゃんがこれからも和泉さんとずっと一緒にいて、優しくしてあげれば、いつかは教えてくれるかもよ?」

『けっこう優しくしてやってるんだけどなあ』

「それを積み重ねるのよ、継続は力なり、よ」

『長期計画かあー』


 別に長期でなくても、和泉さんが恥ずかしがらなければいいだけなんだけどね。まあ、でも、眼の前にいる人に改めてそういう事言うの、恥ずかしがる人は多いのよね。

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