女装しないで済ませたい

 お昼ご飯中。ふと気づいたことがあって、千歳(幼児のすがた)に聞いた。


「そう言えば、千歳は知らないところに一人で行くの苦手じゃん」

『うん』


 千歳は親子丼を頬張りながら頷いた。


「こないだは、よく大田区の産業プラザまで来られたね?」

『んー、行ったらお前がいるかなって思ってたし、あと倉沢静が子供の頃住んでたあたりだったし』

「倉沢静って、あのゴツい人だっけ?」

『そうだ。まあ、倉沢静が子供の頃の街並みと全然違ったし、早く行きすぎてお前いなくて、喫茶店で時間つぶしてたけどさ』

「そうだったの」

『知らない所一人で行くの、あんま好きじゃないけど、行った先に知ってる人がいれば、まあ安心かなあ。一緒に来てくれる人がいたほうがいいけど』

「そっか」


 俺は味噌汁をすすった。


「まあ、千歳が初めての所に行かなきゃいけないことあったら、なるべく付き添えるようにするよ俺。でも、今度の咲さんとのデートはのぞきに来ないでね、流石に」


 咲さんは、家の近くの駅ビルがある方の駅まで来てくれて、駅ビルの服屋で俺の服を選んでくれるそうなのだが、駅ビルは千歳が知ってるところだからな……。


『こないだの産業プラザのは、遠くからそっと見てそっと帰るつもりだったんだ、邪魔するつもりじゃなかった』


 千歳は少し気まずそうな顔になった。


「まあ、千歳が咲さんに押せ押せなのはわかるけどね。こないだは結果的にだけど、いてくれて助かったし」

『女装趣味なんかの集まりにめちゃくちゃ人がいて、びっくりしたぞ』

「けっこう多いんだって。こないだは彼氏をかわいくしたい女の人も来たって、咲さん言ってた」

『咲さんみたいな人も多いんだな……』


 千歳は納得した。


「いや、俺はもう、よっぽどのことじゃない限り女装はしないよ!?」


 こないだは、だいぶよっぽどだったからしたけどさ!


『咲さんを逃さないためなら女装も辞するな!』

「そこまでしなくても、咲さん逃げないから!」


 に、逃げないよね、多分……。

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