人生にあなたが欠かせない
まだなんとなく体調はぐずついているが、熱は下がったので仕事をしている。今日は10時からおばあちゃんとのリモート面会もあり、心情的には仕事よりそっちのほうが外せない。
LINEのビデオ通話画面に映ったおばあちゃんは、血色よく元気そうだった。血色の良さは恋する乙女由来かもしれないが。
「お久しぶりねえ、豊ちゃん元気?」
「なんとか。仕事も安定したしさ。おばあちゃんも変わりない?」
「とっても元気よお。あのねえ、栗田さんのお誕生会をしたのよ。ここの老人ホームねえ、毎月お誕生日の人のお誕生日会をしてくれるの」
「そっかあ、いいね」
「今日は、千歳さんはいないの?」
「あ、千歳は今日はお仕事。神社から頼まれて組紐作ってるんだけど、それを渡しに行ってる」
近況を聞くのも兼ねて、南さんが会いたいとのことだった。本当は俺も行こうかと思ってたけど、おばあちゃんとの面会に被ったのでなしにしてもらった。
おばあちゃんの近況を聞き、俺の近況も話す。栗田さんとも挨拶しあい、おばあちゃんと「またね」と言い合って面会が終わる。そして俺ははたと気づいた。
「……咲さんのこと、何も言わなかったな」
うーん、おばあちゃん、千歳と俺をもうセットで捉えてるんだよなあ、そこに俺が彼女できましたって言ったら混乱するかなあ? いや、でも千歳とは恋愛関係じゃないですとは言ってるわけだしな……。
……ま、まあ、もっと咲さんと仲が進展してからでもいいか。
しばらくして、千歳(女子中学生のすがた)が帰ってきた。
『おい、ヤバいぞ、お前に彼女できたって言ったら南さんがすごい顔した!』
「え、どういうこと、南さん的に何かまずいとか?」
『いや、その辺聞いたんだけど、なんでもないですとしか言ってくれなかった』
ど、どういうことだろう……?
「うーん、なんか、南さん陣営に俺とくっつけたかった人がいるとか?」
南さん自身は結婚したくない人だけど、南さんの縁者に、千歳とつながりを作るために俺とくっつけたかった人がいる、くらいならわからなくもない。
千歳も納得したようで、頷いた。
『あー、そうかもな。でもお前、咲さんと上手くいってるわけだしな』
「うん、お見合い話持ってこられても断ると思う」
『まあ、タイミング悪かったと思って、諦めてもらうしかないな』
「そうだね、諦めてもらおう」
俺は頷いた。
『お前、体の調子はどうだ?』
千歳はエプロンを手に取った。
「仕事はできるけど、まだあんまり……散歩は休むよ」
『飯は食えるか?』
「食べれるけど、温かいものがいいな」
『じゃ、煮込みうどんでも作るか。ネギいっぱい入れてやる』
「ありがとう」
『あんま根詰めるなよ、萌木さんのところの仕事だけ最低限すればいいんだろ?』
「……そう思って頑張って済ませたんだけど、追加でまた来てねえ」
俺は苦笑いした。萌木さんはもうすぐ育休、育休明けても時短だから俺が雇われたわけなのだが、萌木さんの仕事を巻き取るだけで三人必要だそうだ。萌木さん、すごいな……。
「まあでも、なるべく早く済ませて休むよ」
『そうしろ、うまい煮込みうどん作ってやるから』
千歳はエプロンをつけながら笑った。
……俺の実家では、おばあちゃんが料理担当、というか家事全般担当だったことを思い出す。というか、よく考えたら俺の面倒をメインで見てたのもおばあちゃんだ。小さい頃は、おばあちゃんに抱きつけば全てが解決すると思っていた。
千歳がいると、小さい頃おばあちゃんに抱きついたときと同じ種類の安心を感じる。咲さんとどうなるにせよ、千歳のいない生活は、俺はもう考えられないだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます