頑張りすぎても続かない
『お前、体調悪くないって言ってたのは何だったんだ』
「ごめんなさい……」
久々に熱を出して寝込んでいる。コロナ検査キットは陰性だったし、ただの風邪なのだが。
この日曜にまた咲さんと会おうかという話があったのだが、俺がこの状態なので流れてしまった。
『まあ、お前、このところ残業多かったし、初めて彼女もできたしで大変だったな。しっかり休んでろ』
千歳(黒い一反木綿のすがた)は寝てる俺を布団の上から軽くトントンした。
「うん……」
コロナ陰性とはいえ、寒気はするし多少咳も出る。熱が出たのが土曜だったから、行きつけの病院やってなかったんだよな、月曜になっても良くならなかったら病院行こう……。
『生姜湯くらいなら作れるぞ。飲むか?』
「ありがとう、欲しい」
『食欲はあるか?』
「まあ、なんとか食べられると思う」
『ネギとニラと生姜たくさん入れて味噌汁作ってやるから、体温めて治せ』
「ありがとう、助かる」
寒気がするってことは体温めて汗かいて風邪追い出すのが一番なんだよな、温まるもの作ってもらえるのは本当にありがたい。
千歳の作ってくれた生姜湯を飲んで、布団にくるまる。
どこで移されたのかなあ、最近人口密度が高い所に行ったのは……コンビニにお金おろしに行った時かな、そんなんでも移るのか……一応、外出る時は適宜マスクしてるんだけど……。
最近疲れてたのかなあ、まあ、仕事けっこういろいろやってたし、咲さんと話したり即売会手伝ったりもあったし、あと咲さんがうちにご飯食べに来たときも俺けっこう緊張したし……主に男女交際の駆け引き的な部分で……。
……別に、咲さんいい人だし、話してて疲れる相手とは思ってなかったんだけど、付き合うとなるといろいろ大変だな……俺の経験不足が悪いんだけど……。
咲さんと、もし仲が進展して一緒に暮らすまで行けるとしても、俺、そこに行くまでにすごく頑張んなきゃいけなさそうだ……大変そうだな……。
ダメだ、弱ってる時に考えごとしてもロクなことない。咲さんのことはしばらく考えない。
しばらくウトウトして、『飯できたぞ?』の千歳の声で起きた。
「あ、ありがとう……」
風邪と寝起きのぼんやりをなんとか振り切って体を起こす。食卓まで行くと、味噌汁と白米と温泉卵が並んでいた。
『一応、食べられるだけでいいから。白飯重かったら、おかゆ作るから味噌汁だけでも食べろ』
「うん、ありがとう……」
とりあえず、味噌汁をすする。ネギとニラがこれでもかと入っていて、生姜の風味もガツンと効いている。寒気が少しずつ癒えていくようだ。
「味噌汁、すごくおいしい、すごくあったまる……」
『うん、よかったな』
そう言うが、千歳は心配そうだ。
「ごめん情けなくて、ちゃんと食べてよく寝て、元気になるから」
『うん、でもなんていうかさ、頑張りすぎるなよ、お前はいつも頑張りすぎる』
「…………」
……そうなんだよなあ、頑張りすぎたからブラック企業で体壊したんだしなあ。
でも、俺、頑張らないと、千歳の望み、すなわち結婚して子供を作るの、できそうにないんだよな……。
とにかく、食べられるだけ食べて、また寝た。弱ってるときに考えてもなんともならない、元気になってからだ。
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