お疲れ一杯楽しみたい

 咲さんを駅まで送っていってから。俺は家に帰って、頭を抱えた。


「男女交際の駆け引きわかんないよぉーっ!」


 千歳(黒い一反木綿のすがた)が『どうした』と返事した。


「あのさあ、腕組んだり手繋いだりするのって女の人側からばっかりやらせちゃ失礼だと思う? 俺からもアプローチしていいと思う?どれくらいまでアプローチすれば失礼じゃない? どれくらいまでアプローチしても失礼じゃない?」

『だからどうした』


 千歳が不審な顔をするので、俺は千歳に説明した。咲さんを駅まで迎えに行ったとき、咲さんから腕を組まれたこと。駅まで送っていった時も、咲さんから手を繋がれたこと。

 咲さんは「また今度!」と至って上機嫌で帰っていったけど、俺はどうすればいいんだ。どこまで咲さんに触っていいんだ。好意を持たれているのは事実だと思うけど!

 千歳の答えは至って簡単だった。


『次のデートでキスくらいしたっていいと思うぞ?』

「そ、そうなの……?」

『咲さんから来てるんだから、少なくともお前も同じくらいやっていいだろ。次のデートではお前から手をつなげ』


 そ、それくらいならなんとか、できなくもないな……。


「が、頑張る……」

『頑張れ!』


 千歳は俺の背中をどやした。


『お前、自分から手を繋ぐ繋がないの段階でもだもだするとか、中学生か』

「……中学くらいでやっとくべきだったよねえ、そういうのは」


 俺は大きくため息を付いた。思春期、そういうことは無縁だった。親といろいろあって、自分は友達なんて作っちゃいけない人間だと思って、自分から人間関係作らなかったのは、本当によくなかった。これからでも、取り返さなきゃ。


「自分から手をつなぐのは、頑張るよ。場合によってはキスに持ち込むのも検討する」

『しっかりやれ。あ、別にもっと先行ってもいいぞ、ワシは別にデキ婚もありだと思ってるからな』

「それは先へ行きすぎなんだよ!!」


 流石にそこまで出来るわけ無いだろ!!


『まあ、次でやれとは言わないけどな。ワシはひと仕事終わったから、一杯やる』


 咲さんはあんまりお酒強くないということで、今日の食事会はお酒なしだったのだが。まあ、家だし、千歳は本当は200歳超えてるし。


「お酒、うちにあるの?」

『今日料理で使ったワイン、ジュースで割って飲むんだ』


 ああ、なるほど、それなら料理用ワインでもおいしいな。


『お前も一杯くらい飲るか? お前の好きそうなの、作ってやる』

「え、どんなの?」

『白ワインをグレープフルーツジュースで割ったやつ』

「あ、おいしそう」


 確かに、俺はそういうの好きだ。え、わざわざグレープフルーツジュースも買ってきてくれたのかな、嬉しい。


『じゃ、作ってくるな』


 千歳は台所に引っ込み、俺は食卓に使うテーブルで待っていた。


『ほれ、お前の』

「ありがとう!」


 白ワインをピンクグレープフルーツジュースで割った飲み物は、酸味強めで爽やかで美味しかった。


「これ、おいしい」

『そうだろ』


 千歳は赤ワインをオレンジジュースで割ってぐびぐびいってる。


『酔わないけど、たまに飲むと酒はうまいな!』

「家でなら、俺に遠慮しないでいくらでも飲んでよ」

『いつも買い物に行く子どもの格好だと売ってくれないんだ、このワインは大人の格好でわざわざ行って買った』

「あ、そうなんだ」


 そうか、未成年へのアルコール規制、きつくなってるもんな。


『あと、甘いものの方が安いからなあ』

「酒税あるもんね……」


 俺は白ワインカクテルの続きを飲んだ。これ本当においしいなあ、これからもたまに飲もうかなあ。

 ……どうしよう、咲さんと楽しく過ごせたら、と言ったけど、千歳と気のおけない会話をしながら雑なカクテル飲んでる方が楽しいな。どうしよう。

 ……いや、咲さんと付き合い深めればまた違うって。咲さんとデート重ねれば、どうにかなる、きっとどうにかなる。

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