閑話 あすけんと怨霊

 千歳(黒い一反木綿のすがた)がスマホを片手に怒っている。


『なんで世の中にはやせるための情報ばっかりで太るための情報がないんだ!』

「どうしたの」


 俺は千歳のスマホの画面を覗き込んだ。薄緑を基調としたなんかののアプリの画面が写っている。あ、これ、狭山さんのツイートやノートで見たことあるな、あすけんかな?


『狭山先生がやってる栄養管理アプリさあ、お前を太らすのに使おうと思ったんだけどさあ、やせるためと現状維持のコースしかなくて、太らせるコースがない』


 千歳はむくれた。


「別に体調悪いわけじゃないし、現状維持で十分だけど」

『でも健康診断でやせすぎって言われただろ!』

「それはまあ、そうなんですけど」


 千歳のいつものご飯で満足してるのは本当なんだけどなあ。


『うーん、とりあえず現状維持コース選んで、なるべくそのコースのカロリーを上回るのを目指そう』

「すいません」

『狭山先生、一週間か一ヶ月のトータルで栄養管理できれば十分って言ってたから、とりあえずここ一週間のメニュー入れてみよっと』

「え、覚えてるの!?」


 作ってる人とは言え、覚えてるのすごくない!?


『一応、メニュー被らないように軽くメモしてあるんだ』


 千歳は傍らにおいてあるメモ帳を指さした。え、えらい……!


「ありがとう、おかげさまで豊かな食生活が送れています……」

『ふふん、まあワシ割とやるだろ』


 千歳は得意げにし、早速メモ帳を開いてアプリに入力しだした。

 慣れというのはすごいものであり、千歳はその辺の人と遜色ないスピードでフリック入力ができるようになっている。やる気と興味があれば、身につくんだなあ……。

 入力し終えたらしく、千歳はメモ帳を閉じ、『うーん』と難しい顔をした。


『カルシウムとビタミンAが足りてないなあ……』

「そうなの?」

『ほかはまあ大丈夫だし、カロリーも現状維持くらいはとれてるんだけどさ』


 千歳はスマホを俺に見せてくれた。映し出されたグラフは、確かにカルシウムとビタミンAの不足を示していた。


『今日買い物行くから、ほうれん草とにんじんと牛乳とヨーグルト買ってこようっと』

「レバーもビタミンA豊富なんじゃない?」

『あ、そうか、肝油とかあるもんな。それも買おっと。昼飯はレバニラとにんじんしりしりな』

「ありがとう」


 在宅仕事の利点として、平日の昼から臭うものを食べても全然問題ないというのがある。


『あとは……おやつはしばらく乳製品使うやつにしよう。あと、お前コーヒーをカフェオレにしろ』

「はーい」


 まあ、牛乳入れた方が胃にいいな。

 ……千歳、本当に俺のためにいろいろやってくれるな……。俺も、千歳の願い、すなわち結婚して子供を作ることを叶えられればいいんだけど、ちゃんと出来るだろうか?

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