番外編 金谷千歳のひっかかり

 夕飯の時、『で、咲さんとはどんな感じのことしたんだ?』と和泉に聞いたら、詳しく話してくれた。


「えーと、最初はメンズメイク教えてもらって、その後咲さんに見てもらいながら自分で自分をメイクしてさ」

『うんうん』

「で、そのあと、咲さんのフルパワーのメイク趣味を披露されて、こんな私でいいならどうですか、って言われた」

『おお! いい感じじゃないか!』


 ワシはすごくうれしかった。やっとこいつ、結婚に向けて具体的に進んだ!


「うん、まあ、俺も話してて悪い感じしなかったから、今度は普通にお茶して話しましょうって言ってさ」


 和泉はすまし汁をすすった。


「咲さんの方から、いろいろ咲さんのこと教えてくれたからさ。咲さんと今度は普通にお茶して、今度は俺のこといろいろ話そうかなって」

『うん、いいじゃないか』

「まあ、俺の好きなこととか、あと千歳のこととか、おばあちゃんのこととか。言いにくいことだけど、俺の親がいろいろアレで付き合いがないってことも、ちゃんと話す」

『うん、まあ結婚も視野にって相手なら、そういうことも話さないとな』

「親のことについては嫌がられるかもしれないけど、それならそれで仕方ないし、また次だ」


 和泉が少しさみしそうな顔をしたので、ああ、こいつは咲さんにフラれるのはいやだし、割と咲さんのこと好きなんだな、と思った。


『咲さんが嫌がらないといいな』

「うん」


 付き合うならお互いのこと知って、お互いのこと嫌じゃないかどうか、知らなきゃいけないもんな。

 こいつは咲さんに自分のことを話す。言いにくいことでも、ちゃんと話す。

 ……こいつは、咲さんに大事な人のことも話すのかな? ワシには言わない、大事な人のことも話すのかな?

 それを想像したら、なんだか胸がぎゅっとしてしまった。

 こいつ、恥ずかしいからワシに教えられないって言うけど、何が恥ずかしいんだろう。緊急事態だったとはいえ、ワシ、こいつが吐いて漏らしたときの世話もしたことあるのに。

 そんな相手にも恥ずかしくて言えないって、どういう人だろう。

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