終わってゆっくり話したい
勉強会の帰り、狭山さんに車で送ってもらっている。後部座席に俺と千歳、金谷さんが助手席だ。
四人で、なんとなく今日の勉強会の話になった。和束さんはフルネームを和束天さんといい、呪術関係にしか興味がないことで有名な人だそうだ。
狭山さんが言った。
「そういう人なんですけど、今日は和束天さんの独走で場が砕けたところがあったので、よかったですね」
「それは本当にそうですね」
俺は頷いた。千歳の方に変に注目する人がすっ飛んでこなくてよかったよ。
『本当に術式にしか興味なかったもんな、あの人。ワシ、変にいじくり回されなくてよかった』
千歳もうんうんと頷いた。金谷さんが口を開いた。
「そういえば、和束家の人は、千歳さんと縁がないわけじゃないんですよ」
『そうなのか?』
金谷さんが話してくれた。和束天の娘さんに和束ハルという人がいるそうだ。コロナで亡くなっているが、どうも霊になっているらしく、しかしその霊が行方不明とのこと。
「で、鹿沼もみじさんの一件、鹿沼もみじさんの生霊と融合して心霊系の知恵をいろいろ伝えたのが和束ハルさんの霊みたいで」
『へえー、そんなつながりあったんだ』
「霊としてはすごく弱いらしくて、でも知識面はすごいから、緑さんが気になるって探してるんですよ。で、今回和束天さんが来るので和束ハルさんのこといろいろ聞きたかったそうなんですが、呪術以外のことに興味がなさすぎる人なので、収穫が期待できないってぼやいてました」
「それは……相当ですね」
俺はつぶやいた。娘の情報が期待できないって、呪術以外のことは本当に興味ないのか。うーん、和束さんは高千穂先生の術式版なのかなと思ってたけど、高千穂先生は医者としての普通の仕事もちゃんとしてるっぽいから、同一視しちゃいけなかったかな。
千歳が別の話題を出した。
『そういえばさ、先生たち、新婚生活どんなだ? ラブラブか?』
運転席の狭山さんが、苦笑する気配がした。
「なんとか、ぼちぼちです」
金谷さんもなんとなく苦笑した。
「楽しいですけど、共同生活って話し合うこと多くて大変だなって……クーちゃんとはすぐ仲良くなれたんですけども」
『ふーん、甘いだけじゃないのか』
狭山さんが「あ、そうだ」と言った。
「まだ式場探してる段階なので、ずっと先になるんですけど。結婚式やる予定なので、お二人に参加していただけたら嬉しいです」
『え、行く!絶対行く!』
千歳は飛び上がる勢いで喜んだ。俺も嬉しかった。
「わあ、ありがとうございます、参加させてほしいです!」
千歳は新婦の家族、俺は新郎友人か。席離れちゃうかな?
金谷さんが、申し訳無さそうに言った。
「ただ、本当に先の話なので、それは申し訳ありません」
『式場迷ってるのか?』
「特に迷ってないんですが、定評があるところだと、普通に予約一年待ちなので……」
『ええー!?そんなに混んでるのか!』
狭山さんがため息を付いた。
「結婚式、何をどうすればいいか全然わからなくて、いまさらゼクシィとか読んでるんですよ……」
結婚してからゼクシィ読むとか、盗人を捕らえてから縄を綯うみたいな話だな……。
「ま、まあ、一番その辺の情報詰まってる雑誌ですからねえ」
俺はフォローの言葉を口にした。狭山さんはまたため息を付いた。
「他にも困ってることがあって」
「どうしたんですか?」
「妹がですねえ、結婚式で、僕にメイクするって言って聞かないんですよ」
「ん? メンズメイクってやつですか?」
メンズメイク、そのうち基礎を履修しておきたいんだよな。富貴さんが基礎化粧品だけじゃなくてメンズメイクの方面も俺に仕事振りたがってるから。
狭山さんは気乗りしない声だった。
「まあ、メンズメイクなんですけど、妹は他人にメイクするの全般が好きなもので……確かにいい感じに仕上がるんですけども……」
「咲さんって、メイク趣味なんです?」
「そうですね、自分にやるより人にするのが好きで」
「へえー」
……咲さん、というか埼玉9号さんに聞いたら、メンズメイクの入門とか教えてくれるかな? 機会を見て、Discordの方でその辺話しかけてみてもいいかも。
とにかく、大きな集まりが無事に終わってホッとした。帰ったら、少し休もう。
※同居し始めた狭山とあかりちゃんのなんでもない会話
腹見せくねくねダンスするクー
狭山「これは「おなかをなでろ」と言っています」
あかり「へえー」なでなで
狭山「「なでて」ではなくて、「なでろ」なことに注意してください。無視し続けはダメです、後が怖いので」
あかり「何が怖いんですか?」
狭山「布団などに報復おしっこをされます」
あかり「!?」
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