閑話 好き好き大好き

 最近ネットで流行っている、耳に残る歌。千歳もどこかで聞いて覚えたらしい。台所から戻ってきて、唐突に歌い出した。


『好きな惣菜発表怨霊が♪ 好きな惣菜を発表します♪』

「うん?」


 なんだろう?


『白米♪』


 惣菜じゃない。


『焼き肉♪』


 惣菜なのか?


『焼き野菜♪』


 惣菜にしてはシンプル過ぎないか?


『おひたしにごま油かけたやーつ♪』


 ん? なんだ? あ、ナムルか!


『つー訳で、今日の夕飯は焼き肉だ』


 千歳はいきなり普通の口調に戻った。


「あ、献立発表だったんだ」

『お前も発表しろ、歌え』

「ええっ!?」


 唐突な無茶振り!


「ええと……」


 うーん、どうしよう、そういや前、献立決めるの大変だから食べたいもの言えって千歳に聞かれたな。うーん、好きなメニュー言うだけならやってあげたいよな、や、やるか!

 俺は歌い出した。


「好きな惣菜発表ライターが♪ 好きな惣菜を発表します♪」


 歌い出しを歌う間に考える。まあ、好きな惣菜として一番先に来るのは……。


「唐揚げ♪」


 えーと、同じくらい好きなのは、醤油と柚子ジャムで作った鶏ももの照り焼き……言いづらいから柚子照り焼きでいいか。


「柚子照り焼き♪」


 あと最近食べて好きだったのは、ええと……。


「カブのあんかけ♪」


 えーと、次、正式名称がわからない惣菜言わなくちゃいけないのか! ええと、ええと……あーっ、もういいや!


「大体千歳が作ったやーつ♪」

『え!?』


 大人しく聞いていた千歳は驚いた。


「正式名称が♪ わからない惣菜も♪ 好き好き大好き♪」


 俺は、畳み掛けるように原曲そのまま歌った。よし、オチが付いたな。


「発表し終わったよ」

『もうちよっと具体的に言え、今週の献立に困るだろうが』


 千歳は抗議した。


「3つは具体的に言ったから、勘弁してよ」

『しょうがないな……。まあ、そのうち作ってやるよ』


 千歳はまた台所に戻っていった。

 あんまり深く考えないで歌っちゃったけど、いつもご飯作ってくれる人の作ったものが大体好き、っていうのは、すごく運が良くて、幸せなことなんだろうな。

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