高いものでも買ったげたい
千歳(ヤーさんのすがた)とともに駅前の電気屋に赴いた。
「なんで今日その恰好なの?」
店員さんによくしてもらえそうな、警戒されない姿のほうがいいもんじゃないの?
『うまくすれば、冷蔵庫担いで帰れるかもしれん』
「でも、大きい冷蔵庫ほしいんだろ? 担ぐのは流石に無理じゃない?」
『うーん、じゃあやっぱり配達してもらうか……』
千歳はため息を付いた。
とりあえず冷蔵庫売り場に行き、店員さんを捕まえてこちらの要望を伝える。
『冷凍庫と野菜室が大きくて、ハイテクじゃなくていいから安いやつがほしい!』
千歳はいつも要望が明確でいい。店員さんも、はっきり言ってくれる客は顔が怖くてもやりやすいのか、愛想よく承ってくれた。
「ご利用はお二人ですか? お料理はされますか?」
『二人で、ほとんど自炊。ワシがよく食べる方で、買い置きと作り置きしたいから、大きめがいい』
「それですと、400L台がおすすめですね。こちらの場所に多く置いてあります」
冷蔵庫は千歳がよく使うものなので、千歳と店員さんのやり取りに任せればいいかな。
千歳はいろいろな冷蔵庫を開けたり閉めたりして吟味していたが、やがて俺を手招きした。
『このさ、ドアが左右どこからでも開くやつ、冷凍庫も野菜室も大きくていい感じなんだけど、お前的に値段どうだ?』
二人半分ずつで俺十万なら出せる、と思ってたけど、名札を見ると十六万しない冷蔵庫だ。
「俺は出せるよ、正直もっと高いと思ってた」
千歳の顔がパッと輝いた。
『じゃ、これでいいか?』
「千歳がそれでいいなら」
『じゃ、これください!』
千歳は店員さんに声をかけ、会計して明日の午前に買った冷蔵庫を配送してもらうことになった。
帰り道、千歳はウキウキしていた。
『いやー、これで冷蔵庫に余裕できるようになった、明日はいっぱい買い物しに行こう!』
冷蔵庫が大きくなって嬉しい怨霊is何。
「あ、そういえば、今の冷蔵庫も使えるわけだから、相当買い込めるのか」
『うん。だから、買い物と作り貯めに集中する日と、組紐づくりに集中する日を分けて、メリハリ向けて頑張る』
そうか、千歳は今兼業主婦(夫?)みたいな立場になってるのか。俺、家事何もしないの悪いな。
「家事ほとんどやってもらっちゃってごめん、俺もなにか、やれることがあればやるようにするから」
『お前は仕事して稼げ。稼げないから結婚できないんだろうが』
「それはそうなんだけど……」
萌木さんの仕事は割がいいので、時給換算にしたらそれなりの稼ぎにはなってるんだけど、それがずっと続く保証がどこにもないのがフリーランスだからな……。
『あ、でも、皿洗いと風呂掃除は助かってるから、それはなるべくやれ』
「あ、そうなの?」
作ってもらってばっかりじゃ悪いと思ってやってたことだけど、ちゃんと千歳の役には立ってるのか。
「じゃあ、引き続きそれ頑張るよ」
『あと、夜は落ち着いて組紐作れるから、夜はお前に座らせろ』
「はい、椅子としての使命を果たします」
千歳が変幻自在存在ということを知らなかったら、おかしな会話だろうな。こんなデカくてゴツいおっさんに乗られたら、俺つぶれちゃうし。
そうだ、帰ったら、こないだ出した確定申告書類を使って、去年一年の経済状況をちゃんと千歳に説明しよう。ずっと同じくらい稼げる保証はないけど、今の時点では、冷蔵庫全部俺のお金で買えるくらい稼げてるんだよ。
俺、意外と大丈夫なんだよ、千歳。まあ、全部千歳のおかげなんだけど。
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