番外編 和束ハルの観察

今日も怨霊はのんきに暮らしている。

先日は失敗したな、怨霊に影響が出るようなことになるとは思わなかった。和泉豊と狭山誉が思わぬ働きを見せたせいで、峰家の長男坊の人生はそんなにぐちゃぐちゃにならなかったし。残念だ。

やはり術式を仕込むのは、怨霊本体にしたほうがよさそうだ。

怨霊と和泉豊はのんびりと食卓を囲み、冷蔵庫を買う買わないなどと話している。

暇にあかせて作った術式で、二人が今考えていることを見てみる。油断していると、人の考えは結構外に漏れているのだ。

和泉豊は、「千歳、俺に大きい買い物させるのためらってたのか、経済状況のこと心配させて悪かったな」と思っている。「今の仕事七割萌木さんからで、萌木さんのグリーンライトの仕事は割がいいから割と大丈夫なんだけどな」

こいつ、怨霊が来てからずいぶん生活が良くなってるな……。

怨霊は『三つ目の願い使わなくてよくなっちゃったな、どうしようかな』と思っている。

『三つ目の願いで頼んだら、こいつの大事な人のこと教えてくれないかな……だめか』

心が読めなくても、しばらく観察していれば和泉豊は怨霊をとても大事にしているとわかるんだが。この怨霊はアホなのか?

和泉豊には怨霊の組紐で強い防護がかかっており、怨霊も鳴子の組紐で有害な干渉に気づきやすくなっている。だから、直接怨霊になにか仕込むのは難しい。

だが、怨霊に一片の害意も持たない和泉豊に、和泉豊に害のない術式を仕込むことなら出来る。和泉豊に害がなく、怨霊には害がある術式を。ふだんから距離の近い二人だから、和泉豊に仕込めば怨霊に術式が映るようにできるだろう。

この怨霊は、別の霊を取り込んでその力を自分のものにしてしまうのに長けている。このまま近寄っても、私は取り込まれてしまうだろう。私がこの怨霊を取り込みたいのに。その力を自分のものとしたいのに。

この怨霊をまたバラバラにしたら、何らかの勝機があるかと思うが……そういう術式を、和泉豊の害意のなさで隠して怨霊に仕込もう。術式自体は峰家の長男坊の時にすでに隠せたわけだし、狭山誉が一見して見つけられなければいい。

この二人を観察しながら。いい術式を、作り上げよう。

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