公私をともに充実したい
最近、書く仕事だけじゃなくて人の書いたものをチェックする仕事が増えた。萌木さんに「この人とこの人で、和泉さんが今後頼むとしたらどっち?」みたいに聞かれることもある。
「でも一長一短で、迷うんだよね」
朝ご飯の味噌汁をすすりながら、思わず千歳に愚痴をこぼした。しょうもない仕事の愚痴を聞いてくれる相手がいるのは、本当にありがたい。
千歳は首を傾げた。
『どんな感じの人なんだ?』
「うーん、癖のある文体で注意点も多いけど、注意点を言ったらそれ以降絶対守ってくれる人と、それなりに読みやすくて注意点少ないけど、何度注意してもその次はまた同じこと間違える人。どっちがいいかと言われると……って感じで」
『注意したら守ってくれる奴のほうがいいだろ』
「注意するところが多いのが難点なんだよね。手をかければいい感じになる人だと思うけど、手をかけるだけの余力がこっちにあるかという問題もあるから」
『そうなのか?』
千歳はあんまピンときてないようだ。
「どこもあんまり余裕ないもんで」
育てる余裕があるか、と言うと、また別の話だ。
いや、でも。
選ぶ最終決定権は萌木さんにあって、萌木さんは、いろいろ至らないところがある俺を何かと気にかけてくれて、育ててくれた人だからな。
「うーん、でも、萌木さんだったら育てるのに燃えるかもしれない。注意点守ってくれる人を推してみるよ」
『そうか、がんばれ』
千歳にはそう言われた。応援してくれる人、いるだけでありがたいな。
朝一で萌木さんに推す人と推す理由を伝えると、了承してくれた。ついでに、今日の午後まで俺に渡す予定の次の仕事が明日に延期になるからごめん、と言われた。まあ、納期をその分伸ばしてくれるとのことだから、いいや。
ん? なら、今日の午後がまるまる空くな……。
こないだおっくんと、飲みたいけど予定合わないね、とLINEでぼやきあったことを思い出す。あのとき、おっくんが空いてるって日に、今日の夕方が入ってたな。
俺は、こたつで組紐を作る千歳に声をかけた。
「千歳、もしかしたら今日おっくんと飲みに行くかもしれない、夕飯いらなくなるかも」
『お? そうなのか?』
「ちょっとまだ、おっくんの返事待ちだけど」
おっくんに「今日いきなり空くんだけど、飲みに行けない?」とLINEしたら「行こう! 川崎あたりでいい?」と返事が来た。
「オーケーきた! おっくんと飲みに行ってくる!」
『おう、楽しんでこい』
千歳は笑った。
そういう訳で、おっくんとゆっくり話すことになった。
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