ケジメを付けて終わらせたい

社務所に入って金谷家の面々に椅子を出してもらい、とりあえず全員で座って、事実確認めいた説明をした。

狭山さんは以前から自分のネットストーカーに困っていた話をして、そのネットストーカーが「クリエイターは不幸でないといいものが作れない教」に染まっている人だったので、自分の結婚や結婚相手をその人に知られるのを恐れていた話もした。俺は、狭山さんに相談されて事態を知っていたのと、このところのあれこれで、もしかしてそのネットストーカーは朝日さんではと思い、鹿沼さんの能力を使って答え合わせをしたことを話した。

朝日さんはすべてを全面的に認めた。俺と千歳にちょっかい出したのも、狭山さんの執筆時間を千歳が奪うからかもしれないからだって。

『ワシ、確かに狭山先生の時間ちょっととっちゃったかもしれないけどさ、あんたのやったことはそれ以上にひどいだろ』

千歳はもっともなことをいい、朝日さんはうつむいた。

安吉さんは顔面蒼白で話を聞いていた。

「あかりと結婚してかわいい孫を作ってくれるかと思ったのに……」

司さんが安吉さんを睨んだ。

「じいちゃんは人を顔のよさでしか評価できないのか? ひどい仕打ちされてもあかりを心配し続けて探し出してくれて連れてきてくれたのは誰なんだ? イケメンの朝日さんではなかっただろ?」

「……すまん……」

安吉さんもうつむいた。

朝日さんはまた土下座しようとしたが、狭山さんに「条件無用で許されようとしてる人の土下座に価値はないんですよ」と氷のような声で言われて固まってしまった。

狭山さんは言葉を続けた。

「あのですね、クリエイターは不幸じゃないといいものが作れない教は本当に害悪なんですよ。人生に足りないものがある方が燃える人の存在を否定はしませんが、少なくとも僕には当てはまらない教義なんです。僕も人生いろいろありましたが、その度、僕はある程度幸せで余裕がないと書けない、と心にしみてるんですよ」

朝日さんは、推しの小説家の説教にしおしおにしおれた。

「はい……」

「あとですね、僕が不幸な時に書ける人間だったとしても、あなたが僕を不幸にして書かせていい権利はないんですよ。僕はあなたのためのものづくりブロイラーではありません。あなたのためだけに書いてるんじゃありません」

「はい……」

狭山さんは大きくため息をついて、続けた。

「あと、僕、普通に今回の件で東奔西走して書く時間削れてますからね? こっちも食い扶持のために必死に書いてるのに何その時間削ってくれてるんですか?」

「申し訳ありません……」

朝日さんは、いっそ面白いくらいに絶望した顔だ。そりゃ、推しの作家に悪巧みが全部バレて、ここまで言われたら、そうなるだろうな。

狭山さんは言った。

「僕の要求は、朝日さんに口頭及び文書で峰家その他各所に今回の企みを説明して、すべて自分に責があるとお詫び行脚をしてほしい、ということです。とりあえず、朝日さん、この場で和泉さんと千歳さんにも謝ってくれませんか? お二人もずいぶん迷惑かけられてますからね?」

千歳も狭山さんに加勢した。

『祟ってる奴から離れろって言われたの、ヤだったぞ! 金わたさないって言われたのもショックだったし!』

俺も一応口を出しとくべきかなと思って、言った。

「千歳と離れろというのは、二度と要請してほしくありません」

司さんがまた安吉さんを睨んだ。

「千歳さんたちについては、半分くらいじいちゃんのせいでもあるよな?」

「……すまなかった、千歳さん」

安吉さんは謝り、朝日さんもすごい勢いで言った。

「申し訳ありませんでした! もう二度とこういうことはいたしません!」

俺はその言葉にちょっと引っかかって、言った。

「もう二度としない、と言う言葉は狭山さんにも言ってほしいですね」

朝日さんはハッとなり、あわてて狭山さんに向かって「もう二度とこういうことはいたしません!」と叫ぶように言った。

その後、牡丹さんと茂さんが狭山さんに、ものすごくお詫びと、あかりさんを見つけてくれたお礼を始め、狭山さんは朝日さんへの氷の厳正さが嘘のように柔らかく対応した。ただ、「あかりさんが高校卒業したら、二人で暮らさせてください」とだけはきっぱり言った。

朝日さんが、後日俺達のところにお詫びの手紙を送る予定とか、峰家に対してまたこういう集まりを設ける予定とか、そういう細々した話もし、とりあえず、朝日さんの企みによる騒ぎは一段落した。

……この場にいない、一人を除いては。

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