送り届けて説明したい

午後に狭山さんの車に拾われて、俺達は金谷家に向かった。金谷さんは割と元気そうで、千歳は喜んでいた。

『元気そうでよかった! どこにいたんだ?』

「川口のビジネスホテルでずっと引きこもってまして……婚姻届、証人になってくださってありがとうございます、和泉さんもありがとうございます」

金谷さんは助手席から後部座席の俺達に頭を下げた。

「あ、いえいえ、なんてことないですよ」

俺は返事した。

『ワシら、ちゃんとあかりさんと狭山先生の味方するからな!』

「本当にありがとうございます、LINEでもそう言ってくださってありがとうございます、二人とも」

金谷さんは頭を下げた。狭山さんも「本当にありがとうございます」と俺達に言った。

金谷家に着いたら、全員がわっと玄関先に集まり、金谷さんの無事を確認して全員ものすごくホッとしたような泣きそうな顔になった。牡丹さんと茂さんは感極まってあかりさんを抱きしめてしまった。

司さんが安吉さんに強めの声で言った。

「じいちゃん、ちゃんとあかりに謝れよ! 今回のこと、じいちゃんがあっちこっちに圧かけたからだろ! 高校生が意に沿わない結婚が嫌で逃げるなんてな、普通に世をはかなんでておかしくなかったんだからな!」

安吉さんは大分消耗した顔をしており、金谷さんに「すまなかった……」とつぶやいた。

「まさかいなくなるなんて思わなくて……ずっといい子だと思ってたから……いなくなるなんて……」

司さんは安吉さんをにらみ、さらに怒気を含んだ声で言った。

「あかりはずっといい子だったし、いい子だろうとじいちゃんがやったような仕打ちしたら家出しておかしくないんだよ。狭山さんがあかりを見つけてくれなかったらどうなってたと思ってるんだ?」

両親の抱擁からやっと開放された金谷さんは、どうして良いかわからない顔で二人を見ていたが、「あの、何にしろ、私は狭山さんと結婚したし、他の人と結婚は嫌だから」と言い切った。

狭山さんが、金谷家の面々に向かって言った。

「あの、今回の入籍では、もともとの予定通り僕のほうが姓を変えましたので、よろしくお願いいたします」

牡丹さんと茂さんは「本当にすみません、とにかく見つけてくださって、ありがとうございます」と狭山さんに頭を下げた。

うーん、金谷家の反応を見るに、俺と千歳、狭山さんの味方としてものすごく頑張らなくてよさそうだな? 司さんがだいぶ狭山さんの味方だったらしいし、安吉さん、司さんにもう相当絞られてるっぽいし。

それから、狭山さんと俺で皆に朝日さん周りの詳しい説明をしよう、ということになった。金谷家の面々に「集まる人間が多いので、スペースのある社務所で話せませんか?」と言われて、少し歩いて社務所に移動しようとした時。

「申し訳ありませんでした!!」

いつ来たのか、朝日さんがこちらに走り寄ってきていた。

彼は「たいへん申し訳ありませんでした!!」と初手土下座を選んだ。じゃ、砂利の上で土下座!?

皆がざわつき、俺もどうしようと思った時、狭山さんがとても静かな声で言った。

「その土下座をしてもらう権利があるのは主に僕だと思うのですが、今あなたは誰に対して土下座していますか?」

その声はたいへんに冷たくて、俺は、狭山さんは氷のように静かに怒るタイプなんだ……と思った。

朝日さんは完全に震えながら答えた。

「狭山先生に土下座しています……」

「主に僕に、であって、他の人もずいぶんたくさんあなたに迷惑をかけられているんですよ。特にあかりさんや、あなたが惑わせた安吉さんに謝る気持ちは、まったくないんですか? 和泉さんも千歳さんも、あなたには相当迷惑をかけられてるんですよ?」

せ、正論……。

朝日さんを助けたい気持ちはゼロだったが、このまま朝日さんを土下座させとくと狭山さんの印象が悪くなると思って、俺は口を挟んだ。

「その、朝日さんが狭山さんにどう関わってて何が悪かったかっていうの、私は周辺情報を多少説明できますし、金谷家の皆さんはわからないことも多いと思うので、朝日さんも同席で全員で話しませんか? 社務所、スペースあるんですよね?」

最後の方で牡丹さんにそう話を向けると、牡丹さんは「は、はい」と頷いた。

朝日さんは恐る恐る顔を上げ、狭山さんの「全員で行きましょう」の声を聞いて、しょぼしょぼと俺達についてきた。

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