番外編 峰朝日の崩壊
金谷あかりが行方不明の報を聞いて、僕は普通にびっくりした。
でも、僕はなんだかんだで金谷あかり本人に直接アプローチしてないしな……僕の顔で言うことを聞かせた安吉じいさんが暴走したのかな?
とりあえず、うろたえる金谷牡丹をなだめて警察に届けを出すことを勧めたり、金谷あかりの無事がわかるまで結婚関連のすべての話を凍結すると安吉じいさんに連絡するしか出来なかった。
金谷あかりは何日も見つからなくて、警察の無能……と思った朝、金谷司にいきなり電話された。
「いきなりすみません、あかりとは連絡が取れました」
「そうでしたか! あかりさん、無事でよかった!」
愛想を総動員して言ったのだが、金谷司からは冷たい声が返ってきた。
「そして、申し訳ありませんが、あかりが嫌がる限りあなたとは結婚させません。祖父には、もう一切あかりの結婚に関わらせません。あかりの結婚については全面的にあかりの意向に添います。あかりの意向は、狭山さんと結婚することです」
「え……」
金谷司にはあまり歓迎されてなかったのは感じてたが、まさか最大の味方を無効化されるとは!
金谷司はさらに続けた。
「それとですね。狭山さんから聞いています。あなたが狭山さんの小説のファンで、狭山さんが独身でないといい小説を書けないと信じ込んで、狭山さんの結婚を妨害するためにうちのあかりと結婚しようとしたのでは、と」
心臓が、止まりそうになった。
「な、な、なんのはなしでしょうか、なんのしょ、しょうこが」
「和泉さんが、鹿沼もみじの力を使って個人特定までに至ったということです。そこまでの話なら、根拠はあると思っているのですが」
「し、しりません、狭山さんの小説なんて読んだことも……」
「そういう風におっしゃるのでしたら、それでよろしいです。とにかく、あかりは本人の意向のとおり狭山さんと結婚します。それでは」
電話が切れた。
呆然としていたら、スマホにツイート通知が入った。狭山先生の表アカウントだった。
反射的にそのツイートを見た。
「突然ですが、結婚いたしました」
婚姻届の写真が、そこにあった。ツイートの文章は、さらに続いていた。
「予定は来年度だったのですが、諸事情により前倒ししました。証人欄は、公私ともにお世話になっている和泉豊さんと、和泉さんと暮らしている方に書いていただきました」
和泉豊の同居人……怨霊が、狭山先生の味方!?
また通知が来た。今度は、裏垢メス男子アカウントへのDM通知だった。
まさか、と思ってDMを開くと、エロ茶坊主先生のアカウントからのDMだった。
震える指でタップして、DMを開くと、こう書いてあった。
「峰朝日さん。僕は金谷あかりさんと結婚しました。あなたが僕の悪質なネットストーカーであり、僕の結婚の邪魔までしようとしていたことは、これから金谷家に詳しく説明する予定です。ただ、僕は、あなたが僕の人生をぐちゃぐちゃにしようとしたことを問題にしているのであって、あなたの性的な趣味を金谷家の人々に開陳したいわけではありません。最初はそれに触れずに説明します。しかし、金谷家の人が納得しなくて証拠を求めてきたら、あなたのアカウントを提示せざるを得ないかもしれません。けれど、あなたも説明の場所に来て、僕の人生をぐちゃぐちゃにしようとしていたことを認めてくれたら、あなたのアカウントの提示は防げます。僕たちは、午後4時前くらいに金谷家に着いて説明に入る予定です。あなたの、よい選択を期待しています」
……狭山先生、わかってるんだ。
僕のしようとしてたこと、全部バレたんだ。
ふらつきながら自室から出たら、青い顔の父親に声をかけられた。
「おい、安吉さんからお前に謝る電話が来たぞ、どういうことだ、何があったんだ?」
「…………」
いろいろありすぎて、何も言えない。
ただ、わかったのは、すべて失敗して、すべてを推しに知られた、ということだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます