番外編 くっつきたい話

星野さんからたっくさん柚子もらったから、また柚子ジャム作ることにした。今は作り方がインターネットにたくさん載ってるから助かる。

皮を剥いて、一度茹でこぼす。果汁を全部絞って、種を取って、皮を小さめの千切りにして、果汁とたっぷりの砂糖でしばらく煮る。

別の鍋でいくつか瓶をゆでて消毒しておいて、ジャムがとろっとしてきたら熱いうちに瓶に詰めてフタして、ジャム入り瓶をしばらくゆでたら完成!

ちゃんと消毒したうちの一瓶は、星野さんにお返しにあげよう。このジャム、紅茶に入れたらうまいから、緑さんにあげる用にも一瓶とっておこう。

瓶に詰めきれなかった分のジャムをタッパーに詰めてから、ワシは夕飯の支度まで一息つくことにした。チョコミントアイスを持って、こたつで仕事してる祟ってる奴のところに行く。

『きゅーけい! 座らせろ!』

「ああ、はいはい」

祟ってる奴は、嫌な顔もせずに座椅子を少しずらして膝のスペースを開けてくれた。ワシは子供の格好になって祟ってる奴の膝に座り込んだ。チョコミントアイスを頬張りながら言う。

『今年の柚子ジャムできたぞ、パンに塗っていいし、料理も作ってやるからな』

そう言うと、祟ってるやつは嬉しそうな顔をした。

「え、じゃあ、柚子ジャムと醤油で鶏肉甘辛く焼いたの、また作ってくれる?」

『あー、あれな。鶏肉あるから、明日にでも作るか』

「ありがとう!」

『でも柚子ジャム全部食うなよ、人にあげる分もあるから』

「星野さんにお返し?」

『緑さんにもあげる、紅茶に合いそうだから』

「そっか」

チョコミントアイスをぱくつきながら、ワシは言った。

『座椅子注文したんだけどさあ、なんか届く予定が遅いんだよなあ。お前のは早く届いたのに』

「あー、ブラックフライデーだからじゃないかな? Amazonがセールやるから、届ける人が不足するみたい」

『そんなんあるのかあ』

しばらく黙ってアイスを食べた。祟ってる奴は、いろんな画面を切り替えて見たり、キーボードを打ったりを繰り返している。カタカタ言う音だけが響く。

仕事中なのに、ワシがこんなにくっついても、こいつ全然嫌がらないよな。ワシがこんなに遠慮なくくっついても嫌がらない相手、こいつだけかもなあ。

最近何となく思うけど、ワシは、優しくしてもらうのでも、ここにいていい、とか、いっしょにいていい、とか、くっついていい、とか、言われると特に嬉しい気がする。でも、それを誰に言われても嬉しいわけじゃなくて、ある程度仲のいい人に言われたほうが嬉しい気がする。

星野さんと緑さんは、「いっしょにいていい」、はくれるけど、「ここにいていい」とはちょっと違うし、「くっついていい」も違うと思う。星野さんにも緑さんにも、くっつきすぎたら、びっくりされて嫌がられると思う。

こいつは、くっついても嫌がらない。ワシがここにいるの、いいって言ってくれてる気がする。

こいつは、優しくていい奴だからかな? 今のワシくらいの子供がいたら、膝に乗せて遊ばせてやるなんて、いくらでもしてやる奴だろうからなあ。

……将来こいつに子供ができて、こいつの膝に乗りたがったら、ワシが膝に乗るのはダメって言われるかな?

ダメって言われるだろうな、こいつだって子供が大事だもん、子供に譲ってやらなくちゃな……。

こいつ、優しくていい奴だから、稼ぎさえなんとかなれば結婚は難しくないと思うし、結婚して子供できたら、ワシはたぶん、こいつにこんなにくっついちゃいけないよな……。こいつの膝はこいつの子どものだし、寝る時巻き付いて寝るのもダメだな、嫁に悪いもんな……。

こいつ、うなされるのだいぶ前からなくなってるから、別にワシがいなくてもいいもんな。

……いつか、こいつにくっついちゃいけなくなるって思ったら寂しくなった。なんでこんなに寂しいんだろう、別にくっつけなくなったからってなにか損するわけでもないのに。

ワシ、こいつにくっつきたいの、やっぱりまだ子供だからなのかな? こいつにくっつけなくなったら、どうしよう?

……いや、こいつまだ彼女もいないのに、早い心配だな。ワシが、こいつが彼女作って結婚するまでに、頑張ってちゃんと大人になって、くっつきたいと思わなくなればいいんだ。

……でも。

『なあ、ワシの座椅子届いても、座りたいときはお前に座っていいか?』

「ん?」

祟ってる奴は、不思議そうにした。

「別にいいけど……そんなに座り心地いい?」

『まあ、その、居心地は悪くない』

今は、まだ、くっついていいよな。膝に座ったり、巻き付いて寝たり。こいつが嫌がらないなら、くっついても、いいよな?

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