お前をこたつに誘いたい

『アイスうまいなあ、こたつアイスは最高のぜいたくだなあ』

千歳(黒い一反木綿のすがた)がこたつでチョコミントアイスを食べてとろけている。今更だけど、怨霊にあるまじき格好だな……。

お昼の食器洗いを済ませたので、仕事机の椅子に座ったら、千歳が聞いてきた。

『お前、今年はこたつで仕事しないのか? あったかいぞ』

「あー、したい気持ちはあるんだけどねえ……」

俺は言い淀んだ。

「なんつーかその……こたつだと、足は温かいんだけど、椅子に座ってるより腰が辛くてさ……」

安物の椅子だけど、椅子のほうが明らかに腰の負担少ないんだよな。

『あー、まあ、しょぼいクッションだもんな』

千歳は納得したように頷いた。俺のこたつクッションは何時のものともしれぬ百均のぺたんこのだし、千歳のも俺が使ってないクッションを前にあげただけで安物である。

千歳は首をひねった。

『うーん、でも、令和なら腰が痛くないクッションとかあるんじゃないか? こたつのほうがいいだろ、あったかいし』

それはそう。俺と千歳でこたつに入ってれば、エアコンの暖房少し節約できるしな。

「……うーん、たまには自分への投資ってことで、いいのないか、ちょっと探してみるよ」

『そうしろ』

仕事時間には余裕があったので、俺はAmazonと楽天とヨドバシのページを開いた。ざっと流し見るが、こたつに入るのを考えるなら、どうもクッションより座椅子の方がいいっぽい。あんまり場所を取らない座椅子、ないかな?

条件を満たし、値段も許容範囲の座椅子があったので、俺はそれをポチった。

「座椅子買っちゃった。届いたらこたつで仕事するよ」

『おっ、いいな』

そういうわけで翌日大きい段ボール箱が届き、俺は早速座椅子を組み立ててこたつに設置した。早速座ってみる。

「おっ、座り心地いい! 背もたれあると違うなあ」

『いいもん買ったなあ』

千歳は、座椅子に座る俺を眺め回してから、また言った。

『……ワシも座椅子買おうかなあ、ワシもなんだかんだでいつもこたつに入ってるし』

「買ったげようか? こないだのお礼もあるしさ」

千歳にお礼でなにかしてあげるの、少なくともあとふたつあるわけだし。

だが、千歳は首を横に振った。

『ワシのだからワシが買う。お前にお礼させるのは別で使う』

「そっか」

まあ、千歳の好みもあるしな。

『だから、ワシのが届くまでお前椅子になれ、それがお礼のふたつめ』

「へ?」

千歳が言う意味がわからなくて、俺が変な声を上げると、千歳はボンと音を立てて幼児の格好になり、座椅子に座っている俺の膝に飛び込んできた。

『うん、まあまあだな、あったかいし』

そのまま俺の膝の上で落ち着いて座り、俺の腹を背もたれにして、タブレットを弄りだす千歳。

「え、俺を椅子にって、そういうこと!?」

『いいだろ、このサイズならそんなに邪魔じゃないし』

「いや、まあ、ギリ仕事もできるけど……」

いや、でも、仕事机からパソコン持ってこないと……いや、でも、どいてもらうの悪いしな……。

千歳は至ってリラックスして、タブレットで座椅子を探している。使いこなしてるなあ。

……まあ、膝に乗られて嫌な相手では全然ないしな。こんなにリラックスして体を預けてくれる相手なんて、そうそういないしな……。

……しばらくこのままでいよう。スマホでもある程度仕事できるようにしてあるし、しばらく千歳の椅子になって、スマホで出来る仕事を全部片付けよう。

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