閑話 怨霊ファッションチェック

おっくんからきたコラムも含め、十日くらい仕事に忙殺されていた。やっと仕事を一段落させて、俺は机に突っ伏してつぶやいた。

「終わった、疲れた……」

『おー、お疲れ』

こたつで組紐を組んでいた千歳(黒い一反木綿のすがた)が、声をかけてくれた。

「疲れた、俺が漫画のキャラだったら、今絶対目がバッテンになってる……」

『体もんでやろうか?』

千歳が寄ってくる気配がした。

「首の後ろもんで欲しい……」

『おう』

しばし揉まれる。頭上から千歳の声がした。

『目がバッテンって、目も疲れてんのか?』

「うん……」

目薬でも買おうかな?

『あんまり頑張りすぎると、目悪くなるぞ』

割と心配そうに言われるので、俺は少しバツが悪くなった。

「あー、実は昔から割と悪い……割と近視」

『え、そうなのか?』

「こないだの人間ドックで、視力0.6と0.7だったな」

『本当に近視だな……』

「昔からだから、前にメガネも作ってある。かけると疲れるからあんまり使ってないけど」

『へー』

千歳は俺の首の後ろをもみ終わり、少しして言った。

『お前、普段からメガネかけてたら、頭よさそうに見えてモテないかな?』

「そんな変わんないだろ」

俺は机に突っ伏していた顔を上げた。

『やってみなきゃわかんないだろ、かけてみろよ』

「うーん、どこにしまったかなあ、メガネ」

心当たりを探してみたら、押入れのカラーボックスの、仕事関係の物入れにあった。とりあえずかけてみると、確かに視界がクリアになるが、なんだか目が疲れる。

かけたまま千歳がいる部屋に戻る。クリアになった千歳が「おー……」と言い、微妙な表情になった。

『うーん……勉強はできそうな感じになったけど、勉強しかできなさそうな感じになっちゃったな……』

つまり、学歴は高いけど仕事はできなさそうな感じか……。世間では嫌われるやつ……。

「言いたいことはわかるけどさ、もうちょっと手心をくれない?」

『悪い、でもお前はメガネかけないほうがモテるかも』

「普段からかけてないけど、別にモテてないよ?」

俺はメガネを外した。かけ慣れてないから耳や鼻への負担がきつい。あんまりメガネかけたくないから、別にいいけど。

まあ、別に、すごくモテたいとはそんなに思わないんだよな、自分にとって好ましい相手に好かれてればそれでよくて、不特定多数に好意を持たれたいわけじゃないから。

といっても、自分自身が好ましい相手じゃなければ自分にとって好ましい相手に好かれないから、そういう意味では努力必要だけど。

「まあ、その、千歳がファッションチェックしてくれるなら、俺もなるべくアドバイスに沿うからさ」

そう言うと、千歳は色めき立った。

『おっ、やる気出したか』

いや、まあ、モテっていうか、千歳が気に入るファッションなら俺はなるべくしますよ、って意味だけどね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る