何もないなら会わせたい

固まっていたら、狭山さんから追加でLINEが来た。

「もしかして、和泉さん、奥さんのこと知ってます?」

もう知ってますね、幼稚園からの仲だから……。

俺はもうどうしていいかわからなくなり、吐き出すように俺と奥武蔵、おっくんのことを狭山さんにLINEしてしまった。

「え、じゃあ、和泉さんが友達作らなくなった原因、奥さん!?」

「そうなんです」

「え、でも、奥さん、和泉さんが和泉さんだってだいぶ前からわかってると思うんですけど……僕、けっこう和泉さんについて奥さんに色々話しましたし……」

「仕事だから、私情は挟まないってことなんでしょうか?」

「いや、でも、そんなドライな人じゃないですよ奥さん」

二人で考えたが、おっくんの胸の内がわかるわけもなし。

とりあえず狭山さんにお礼を言って切り上げ、顔を上げたら、千歳(黒い一反木綿のすがた)の心配そうな顔が俺を見ていた。

『大丈夫だったか?』

「……大丈夫じゃなかった。おっくんだった……」

俺が悄然と話すと、千歳は『うわー』とつぶやいた。

『めんどくさいことになったな……』

「おっくんの方は前々から俺のことわかってたみたいなんだよね、どうしよう……」

ため息を付いたが、午後の仕事をしないといけない。メールが来ていたのでそちらを見たら、また〈奥武蔵〉名義でメールが来ていた。

「本当は一度狭山先生と三者で打ち合わせがしたいですが、その前に一度和泉さんにお会いさせていただけませんか?」

はあ!?

「どうして!?」

声を上げたら、組紐を組み始めていた千歳が飛んできた。

『どうした!?』

俺はなんとか事態を千歳に説明した。

「俺、俺、おっくんにどう思われてるんだ、なんで会いに来るんだ?」

『うーん、でも、単に仕事でかもしれないんだろ?』

「うん、その可能性もすごくある……どうしよう……」

千歳は少し考え、そして言った。

『もしそのおっくんがお前に悪いこと考えてないなら、お前はちゃんとそいつに会えるからな。大丈夫にしてやる、大丈夫だ』

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