別の人であってほしい
俺はたっぷり十秒固まり、同姓同名の可能性を検討し、「あっちに俺の情報行ってるはずなのにこれまで何も言わなかったということは単に同姓同名だろうそうであってくれ」と言うことにした。そんでもって無心でメールに返信した。唐和開港綺譚のコラムについてのことなので、メールのやりとりは数往復で済んだ。
相手からのメールはごく普通の、ビジネスライクな文面だった。
……大丈夫だ、多分同姓同名の別人だ、大丈夫だ。
そう言い聞かせていたのだが、言い聞かせる時点であまり平常でなく、お昼ごはんの時に千歳に『どうした?』と突っ込まれた。
『なんか、ずっと上の空って感じだぞ?』
傍から見ても変か、俺……。
「……あの、重い話でごめんなんだけど、実はちょっと色々あって……」
俺は千歳に事情を話した。
今日初めてやり取りした狭山さんの担当さんが俺の小学校の頃の友達と同姓同名なこと。
彼、奥武蔵、おっくんとは幼なじみで親友だったこと。
だけど小六の時、彼の母親を自分の母親の意向で和泉が勧誘して、それで彼の家庭をぐちゃぐちゃにしてしまったこと
俺はそれで絶交されたこと。
千歳は心配そうな顔をしていたが、ちゃんと聞いてくれた。
「俺ね、それがあって、自分に友達を持つ資格なんてないってなっちゃって、それ以来友達作ろうとしなくなっちゃってさ……他の小学校の友達とも進んで付き合わなくなってさ……友達いないの、そのせい」
『そうか……』
千歳は神妙な顔になり、『うーん』と唸ってから言った。
『あのさ、そんなに気になるならさ、別人だってちゃんと確認しろよ。狭山先生に聞くとかしてさ』
「そうだな、そうすべきだよな……」
本人に聞くわけにも行かないし、狭山さんに確認するのが一番だろう。俺はちゃんと確認すべきことを確認して、平常に戻るべきだ。
お昼が終わって皿を洗った後、俺は狭山さんにLINEしてみた。
「すみません、変なこと聞くんですが、狭山さんの担当さんの奥さん、地黒で、右目に泣きぼくろがふたつありませんか?」
十二歳から二十九歳。相当人相が変わっていておかしくない。なので、年を経ても変化していなさそうな身体的特徴を選んで聞いてみた。
少しして、返信が来た。
「色は黒いですね。今写真確認したら、泣きぼくろも右に2つありましたよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます