未来もあなたに祟られたい

「それで九さんいなくなったんですか!? もうお二人にちょっかい出さない!?」

狭山さんに報告とお礼の連絡をしたら「大丈夫ですか、今、通話いいですか!?」と返事が来たので通話している。

「とりあえず千歳はそう言ってました、九さんの中でどういう変化があったかわかりませんが、千歳のことを200年前とは変わったって思ったみたいです」

九さんにいきなり眠くさせられて、起きたら一日近く経ってたのでびっくりした。喉カラカラでおなかすいてるわけだ。千歳が作ってくれてたお粥や汁物が沁みた。

千歳はすごく心配してくれて謝りながらあれこれ世話してくれて、俺は心配する千歳をなだめながら、寝てる間何があったか聞いた。

『ワシ、お前のこと祟ってるのに、慈しんでるのか?』

「俺はすごく慈しんでもらってると思ってるよ、実際の動機は祟ることなわけだけど、別にそれでも全然構わないよ。それに、千歳、星野さんや緑さんが弱ってたら、優しく面倒見たいし、実際に面倒見るだろ?」

『うん』

「じゃあ、千歳は人を慈しめる人だよ」

『そうかな?』

千歳は首を傾げた。

「そうだって。千歳はすごく優しいよ、昔と違って優しくなったんだよ、だから九さんは許してくれたんだよ」

『でも、お前と一緒にいる限りだって』

「でも、千歳、俺のことずっと祟りたいんだろ?」

『祟りたい!』

「じゃ、今までみたいに祟り続ければ、俺のところにいるってことだし、いいんじゃない?」

『そっかあ』

千歳は納得したようにうなずいた。

お粥とみぞれ汁を食べ、麦茶も三杯飲んだので、体の方はだいたい大丈夫だ。痛みで激しくのたうち回ったせいで、筋肉痛がすごいが。

俺は狭山さんに言った。

「本当にご迷惑おかけしました、南さんたちにもこの後お礼とお詫びの連絡します」

「それがいいですね。いや、でも和泉さんの声聞けてよかったです、文字だけだと元気かどうかわかんないから」

え、狭山さんそんなに心配してくれてたの? わざわざ通話したいって言ったのは、俺の声で大丈夫かどうかを判断するため? てか、荷物届けるためとはいえ、わざわざ顔見に来てくれたんだよなこの人、俺が本気寝してて会えなかっただけで……。

……狭山さんと、仕事の知り合い以上だとは思ってたけど、友達かどうかは狭山さんの気持ちもあるからあえて保留にしてたけど、ちゃんと友達になれたらいいなって思う。でもどうしよう、狭山さん的にはこれからの仕事の制作協力者がいなくなるかもってことで心配してた線もあるし……。

とりあえず、お詫びとお礼の言葉を返すことにした。

「ご心配おかけしてすみません、いろいろ本当にありがとうございます。唐和開港綺譚の制作協力の方も、変わらずちゃんと頑張りますから」

「それは百人力ですけど、でも無理しないでくださいよ! 29人分の死ぬほどの痛みなんて、心臓止まるとか脳の血管切れるとかしてもおかしくないんだから! 今とりあえず元気でも、後から不調出てこないか用心してくださいよ!」

う、それもそうだ……痛みのリスク、考えたら体動かせなくなりそうだったから、あえて考えずに突っ込んだけど、普通に死んでもおかしくないよな……。

「す、すみません……」

「今、声は割と元気ですけど、他に異常ないですか? 些細なことでもいいから、あったら教えてください」

「いや、至って元気ですよ、痛くてのたうち回ったから全身筋肉痛ですけど……あ、あとのたうち回ったから肘とか腕に擦り傷がすごい」

「それは大丈夫とは言わないんですよ!」

「す、すみません……」

俺は縮こまった。そりゃそうだな。

「もー、僕、白折先生に続いて和泉さんまで死んじゃったら本当にどうしようって思ったんですからね」

藤さんって、狭山さんの師匠的な人だよな。え、俺、狭山さんの中でそれと並んだ位置にいるの?

狭山さんは言葉を続けた。

「僕まだ30なのに、仲良くできる人立て続けに亡くすとか、いやですよ、もう」

「す、すみません……健康に気をつけます……」

そ、そうか、狭山さん的には、俺は仲良くできる人なのか……え、友達って思ってもらってるって思ってもいいのかな……ちょ、ちょっとくらい思ってもいいかな……。

狭山さんの、ほっとしたような声が聞こえた。

「でも、筋肉痛と擦り傷だけならまだよかったです。あ、あの、ご協力いただいて、編集部で無事に唐和開港奇譚のプロット通りました」

「え、そうなんですか!?」

「はい、おかげさまで。後はプロットどおりに書くだけなんで、まあなんとかなります。で、その……」

電話の先でなんだかもじもじする気配。

「しばらく書くのに集中したいから、第一稿上がったらなんですけど……。それくらいなら第9波落ち着いてると思うし、その……打ち上げってことで、飲みとかご飯とか、行きませんか? ノンアルコールでも楽しめそうなとこ、探しますし……」

え、そんなん誘ってくれるの? え、これは友達に向かって進んでると思ってもいい? もうすでに友達? それならすごく嬉しいけど、ていうか、狭山さんとなら、飲み食いしながら話すの、絶対楽しいし、行きたい。

「行きたいです! 私は過度な刺激物と油だめですけど、ちょっとならお酒も飲みたいです」

「本当ですか!? じゃ、横浜か大船でよさそうなところ見繕っておきます! 書くの頑張って早く上げます!」

それから少し話して電話を切り上げ、南さんと緑さんと金谷さんにお詫びとお礼と簡単な事情説明LINEを送って、俺は料理を作っている千歳のところに行った。

「どうもありがとうね、いろんなとこにちゃんと連絡したし、一件落着と思っていいと思うよ」

『大丈夫か? 筋肉痛すごいって、さっき初めて聞いたぞ』

千歳は白菜を鍋に入れながら言った。

「大丈夫大丈夫、筋肉痛って筋肉が回復して成長してるって証拠だから、治ったらムキムキになる」

『何言ってるんだ、ガリガリのくせに』

千歳は呆れた顔になったが、安心したように笑った。

ああ、千歳のこんな顔久々に見た気がする。時間的にはそんなでもないんだけど、ちょっといろいろありすぎた。

遅れてる仕事片付けて、落ち着いたら、千歳の誕生日ケーキを一緒に買いに行こう。

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