番外編 金谷千歳の献身 上
祟ってる奴は完璧にぐっすりすやすや寝ちゃって、揺すっても起きない。本当に休んでるだけなのかな? 本当に明日の明け方になったら起きて元気になるのかな?
すごく不安だったけど、あの銀狐は別に祟ってる奴のこと嫌いなわけじゃない。さらったけど、できるだけ怪我させないようにしてたみたいだし。だから、本当に治してくれるんだと思うけど……。
一時間くらいずっと祟ってる奴の枕元にいて、祟ってる奴がちゃんと息してて、顔色良くなってきてて、うなされたりもしてないって確認してから、とりあえず明日の明け方まで待とうと思った。
でもやっぱり不安で、じっとしてられなくて、隣の部屋でうろうろしてたら、玄関のチャイムが鳴った。
応対したら、狭山先生だった。
「お邪魔します! 和泉さん大丈夫ですか!?」
狭山先生は、すごく心配そうな顔をしていた。あいつのこと心配で、わざわざ来てくれたんだろうか?
『あ、ええと、多分大丈夫なんだけど、明日の朝くらいまで起きそうにないんだ……』
ワシは、狭山先生にさっきあったことを説明した。
「じゃ、九さんのおかげで大丈夫そうだけど、明日の朝以降にならないとなんともいえないって感じですか?」
『うん……』
「じゃあ、僕一旦出直しますから、大丈夫だったらまた連絡くれませんか? 千歳さん、僕ともLINE交換しときましょう」
『うん……』
好きな作家さんと連絡先交換できるの、嬉しいことのはずなのに、こんな時じゃ全然嬉しくないや。
「大丈夫じゃなさそうな時……何かあった時も連絡ください。和泉さん、怪我なくてもすごいショック受けたんだから、後から影響出てもおかしくないです。もし和泉さんの様子変になったら、119番もためらわないで」
『う、うん!』
ワシは全力でうなずいた。あいつのこと、しっかり見張っとかなきゃ!
「あ、これ社務所に置きっぱなしだった和泉さんの荷物です。スマホとか入ってるといけないと思って」
狭山さんは、祟ってる奴が持ってた肩掛けバッグをくれた。
『ありがとう……』
「じゃ、僕、和泉さんが寝る邪魔になっちゃいけないから、ひとまずお暇しますね。でも何かあったら、いつでも連絡くださいね」
『うん、ありがとう』
狭山先生が帰って、ワシはまた祟ってる奴の顔を見に行った。ちゃんと息してるし、顔色も大丈夫だけど、こんこんと眠っている。
そうだ、こいつ、起きて元気になってもしばらく重いもの食べちゃいけないんだった。粥炊いておかなくちゃ。他にも、なんか消化に良さそうなおかず作っといたら、食べられるかな?
冷蔵庫にあるもので、何を作るのがいいかあれこれ考えながら、祟ってる奴の様子をずっと見ていた。
夜中をだいぶ過ぎても、祟ってる奴はすやすや寝てるだけで、別に変になったりしなかった。
よかった、多分大丈夫だ。明け方こいつが起きた時のために、粥炊いといてやろう。
和室からそっと出て、台所で米を研いで炊飯器にセットして、お粥モードで炊き始めた。他にも、大根をおろしてみぞれ汁を煮たり、お湯を沸かして温泉卵を作ったりした。
「ずいぶん精が出るのう」
背後から声がして、飛び上がった。九尾の銀狐が、いつの間にか後ろにいた。
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