あなたを悪く思わない

体に全然力が入らない。無理やり動かそうとしても、体が震えまくって全然動けない。のたうち回ったので当たり前だが、全身を酷使したあとみたいに体がガクガクする。

ゲロと失禁でもう体中散々な有り様だったが、着替えるのも体を拭くのも全然できなくて、情けないけど全部千歳に任せきりだった。

千歳は泣きそうな顔で、でもためらうことなく俺の体を全部きれいにしてくれた。

『ゆっくり寝ろ、欲しいものあったら持ってきてやるからな、休め!』

「ありがとう……」

千歳に和室の布団に寝かされたけど、全然ダメだ。さっきのショックで動悸が止まらなくて、頭痛と熱っぽさも出てきてる。まずい、さっきのショック、自律神経がまた狂うには十分過ぎる。

休みたいし休んだほうがいいんだけど、あまりにも事態がえらいことになったから、斎野神社にいる面々に連絡とったほうがいいと思う。

「……千歳、あのね、悪いんだけど……。俺、全然動けないから、南さんに連絡して、事情説明してくれない……?」

『わ、わかった!』

千歳は、自分の体に手を突っ込んでスマホを取り出した。便利だな。

『あ、南って奴の連絡先わかんない、緑さんに言えば大丈夫か?』

「うん、それで大丈夫……」

『じゃ、ワシちゃんと連絡しとくからな、休んでろ!』

千歳はスマホを片手に和室を出ていった。ちょっと開いた襖から、千歳が電話して何事か説明している気配が伝わる。まあ、緑さんなら千歳をなだめて必要なこと聞き取れると思うし、これで大丈夫だろう。

休もうと思ったが、動悸がひどくて全然休まらない。しばらくして、襖の隙間から千歳の顔が覗いた。

『大丈夫か? 説明、ちゃんとしたぞ』

「……ありがとう、あんま大丈夫じゃないけど、まあ、休めばなんとか……」

枕元まで来た千歳を安心させようと、俺はそう言った。

『………』

それなのに、なぜか千歳の顔が歪んだ。どうしたのかと思ったら、千歳は大粒の涙を流し始めてしまった。

『……なんでありがとうなんて言うんだ、全部ワシのせいなのに、痛いのもさらわれたのも全部ワシのせいなのに!』

千歳は両手でぐしゃぐしゃに顔をぬぐい、それでも泣きやめないらしくて、泣きじゃくりだした。

『ごめん、ごめん、本当にごめん、こんな、こんな痛い思いさせて、ごめん……!!』

「…………」

俺は、必死で腕を伸ばした。震えが治まらない手で、千歳の腕のあたりをそっとぽんぽんした。

「……いいんだよ、別に、俺がやりたくてやったんだし……」

『でも、ごめん、本当にごめん……』

「……俺には、別にそんな、悪いって思わなくていいから。でも、もし悪いって思ってるなら、昔みたいに暴れるのは、もう絶対にしないで」

『しない! ぜったいしない!!』

千歳は悲鳴のように叫んで、子供のように泣いた。

その時、さっき聞いた声がした。

「ほう、ずいぶん簡単に言うものじゃの?」

九さんの声だった。

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