番外編 怨霊千歳の後悔

どうしよう、どうしよう、どうしよう、一度にたくさんのことが起きてもうよくわからない。

祟ってる奴がさらわれて、緑さんと狭山先生に危ないって言われたけど気配を辿って異界まで追いかけて。

そしたら、銀狐に縛られて、ワシのことをすごく痛くするって言って、ワシがたくさんぐちゃぐちゃにして痛くした人の痛いのを投げつけられそうになって、でもそしたら、祟ってる奴が縛られてたのを抜けて痛いのに触っちゃって、ものすごく痛い思いして。

どうしよう、こいつ死ななくて済んだけど、全然動けないみたいだ、どうしよう!

銀狐の女が近づいてきた。何かされるのかと思って、祟ってる奴を抱きすくめたら、銀狐の女はため息をついて「そいつについていてやれ、ふたりとも元の世界に戻してやる」と言った。

「妾が痛い目に合わせたかったのはお主じゃ、そいつではない。一時休戦じゃ、しばらく休ませてやれ」

銀狐の女が指差す方を見ると、こっちに来た時に通った神木のうろが裂けて、向こうに家の玄関が見えた。家に帰してくれるらしい。

信用していいのかと思ったけど、確かにこいつ、ワシが嫌いなだけでこいつのことは傷つけたくないみたいだ。こいつから痛いの抜いたし。

でも、怖くて、思わずこう言ってしまった。

『お……お前は来るなよ!』

「行かんわ、お主らが集めた人間たちに事情を説明しておく、本当にこんな馬鹿がいるとは思わなかった!」

銀狐の女は吐き捨て、こっちに祟ってる奴の財布とお守りを投げてよこした。ワシは祟ってる奴を放り出さないように頑張ってふたつを拾って、祟ってる奴を抱き上げてうろの裂け目を通った。

蝉しぐれが聞こえた。家だ、帰ってきた。

とりあえずこいつを休ませてやらなきゃ、でも家の鍵閉めたのこいつだ、ワシ今日スペアキー持ってない。

『おい、お前鍵持ってるか、ポケットか?』

祟ってる奴は、起きてはいるけどぐったりしてとても動けなさそうだ。無理させることないと思って、祟ってる奴のスラックスの横のポケットを探ろうとしたら、祟ってる奴はうめいて「さ、さわらないで、よごれる……」と言った。

何のことかと思った。でも視線をやって気づいた。こいつのスラックスの股間が、染みになっていた。

……こいつ、吐いて漏らすくらい痛い思いして、それなのに、さっきワシの心配したのか?

心臓をつかまれたような気持ちになった。こいつがひどい目にあったの、全部ワシのせいなのに。全部ワシが悪いのに。ワシのせいで。こんな。

それなのに、かばってくれて、心配してくれて。

『……そんなのいいから! 後で洗えばいいんだ! 着替えさせてやるし体も拭いてやる!』

ワシは乱暴にポケットを探って鍵を探り当て、家に入って、祟ってる奴の汚れた服を脱がせて、体をきれいに拭いて、着替させて、布団に寝かせた。

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