あなたの危険をなくしたい

関係各所に連絡して、千歳からの話を誤解のないように伝え、俺が怨霊の精神安定剤的な特異な人間かもしれないことも伝えた。

一息ついたら、もうお昼の時間だった。千歳が茹で鶏サラダそうめん作って出してくれたけど、さっき話してから千歳はずっと元気がなかった。

どうにかしてあげたかったけど、千歳がやったことを無条件で許容することもしてはいけない気がする。どうすればいいかわからなかった。

とりあえず頂きますをして、そうめんをつついていると、しばらくして千歳がぼそっと言った。

『ワシさ、これまでなんにも考えなかったけど、すごくいけないことしたんだなって思うんだ』

「……うん」

『自分の知ってる人がさ、ぐちゃぐちゃになっちゃったらってさ、考えるだけでひどい気分なのに、ワシは本当にぐちゃぐちゃにするのを、たくさんやっちゃったんだ』

「……うん……」

……さっきの話を聞いてて、感じたのは、千歳の幼さだった。自分の感情を整理できなくて、力任せに暴れて。でも、言葉にして自分のしたことを整理して、やっと自分のしたことをちゃんと理解しはじめたのかも、と思える部分もあった。

千歳は、肩を落としたまま、言葉を繋いだ。

『……お前はさ、ワシが悪いことした奴ってわかってるのに、なんで優しいんだ?』

「…………。なんでだろうね。でも千歳のこと嫌いになれないんだよ、俺」

『…………』

「たくさんかまってくれてさ、たくさん良くしてくれてさ。祟るためだっていうのはわかってるけどさ、嫌いになれないよ、千歳のこと」

『……そうか……』

千歳は、大きく息をついて、そうめんを少しすすった。

千歳はやっぱり幼くて、これまで、自分のしたことを深く考えてこなかったんだろう。でも深く考えられない人ってわけじゃなくて、今、やっと自分のしたことに気づくことができたのかもしれない。

「……俺はさ、千歳。千歳が今言ったみたいな、一人がなってしまうだけでもすごくひどいことを、千歳がたくさんしたんだって言うことは、絶対に忘れないでほしい」

『うん……』

千歳は、しおれたまま頷いた。

「でも、千歳が取り返しのつかないいけないことをしたのは事実でも、だから九さんが千歳をどうこうしていいかっていうと、それは違うと思う。だから、千歳が身を守ることはしていい、と思う」

別に九さん、警察でも裁判官でもないもんな。いや、江戸時代の人殺しをどう裁けばいいのかって聞かれると、それも困るけど。

「俺、千歳が平穏無事に楽しく暮らしててくれたら、それが一番嬉しいから、そのためにできるだけのことはするつもりだから。南さんも、金谷家の人も、緑さんも狭山さんも他にもいろんな人が協力してくれるみたいだし。だから、大丈夫」

千歳は、落ち込んだ顔のままだったけど、うなずいた。

食べ終わって、食器を洗い終わって台所から出ると、ポケットのスマホが震えた。見ると、狭山からのLINEだった。

「さっきの話ですけど、もし和泉がそういう特異体質なら、僕は会っただけでそれがわかります。霊以外のことも、僕、割と分かるんで。和泉さんは、心霊的な特別な能力特にない、普通の一般人のはずです」

え? そうなの?

俺は、思わずLINEで聞き返した。

「じゃあ、なんて千歳は荒ぶらないんでしょう?」

「それに対しては仮説というか、思うところがひとつあるんですけど」

「何でしょう」

「千歳さんは寂しくて、誰かと仲良くしたくて、来るなって言われるの嫌だったんでしょう?」

まとめると、確かにそうなるな。

「そうなりますね」

「和泉さん、千歳さんと初めて会った時、どういう感じで対応したんですか?」

「特別なことは、何もしてませんけど」

「ちょっと詳細に具体的に、初めて会ったときのこと教えてもらえません?」

具体的に……うーん……マジで特別なこと何もしてないからな……。

とりあえず、あったことをそのまま書いた。

「私が転んだ時に千歳が出てきて、それで、「ワシを害したから子々孫々まで祟ってやる」って言われたんですけど、当時私は人生割と終わってましたんで、いや子孫作るどころじゃないよと思って、自分で末代だって言いましたね」

「それが良かったんじゃないかと思うんですよ」

「え、どの辺が良かったんですか?」

今の話でなにかいいところ、ある?

「和泉さんが、千歳さんを怖がったり拒否したりしないで、普通に会話したことが良かったんじゃないかと思うんですよ。それだけで、人は寂しくないから」

え、それだけで!?

「そんなことだけで!?」

「まあ、仮説ですけどね。少なくとも、和泉さんに心霊的なそういう能力ないのは、確かですよ」

うーん……。狭山さんは嘘つく理由ないと思うし、適当なこと言う人じゃないし……。俺が特にそういう能力無いのは事実なんだろう。え、じゃあ、千歳が荒ぶらないのは、俺がいて寂しくないから? マジで?

でも、それなら……。

「じゃあ、千歳と私が、普通に穏やかに暮らしてれば、特に問題ないんですかね?」

「それはそうだと思いますよ、これまで問題なかったんだし」

そうか……。

狭山さんにお礼を言ってLINEを終えて、俺は大きく息をついた。

千歳が寂しくなければ、多分それだけでいいのか。そうか……。

俺は、千歳のこと、大事だ。千歳が人殺しでも、罪人でも、多分その気持は消せない。

千歳を大事にして……千歳が楽しく暮らせるようにすれば、千歳は、寂しくないかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る