それでもそばにいて欲しい

まず南さんに、銀狐の九さんに会って困っていることをLINEした。金谷さんと狭山さんにも困っていることを伝えて協力を仰いだ。

けれど、大事なことをちゃんと聞けなかった。

千歳は、何十人も殺した、人殺しなのか。

三人からはすぐ返事が来て、関係者で相談した上で対応策を練る、とのことだった。

……千歳の安全についてはやれることをやった。だけど。

どうしようか、とため息を付いた時、狭山さんからまたLINEが来た。

「僕にもすぐ話来たってことは、千歳さんの状態、何か気になる感じですか? 見に行った方がいいなら時間作ります」

千歳の状態が気になるわけじゃないんだ、気になるのは千歳の過去なんだ。

……いや、そういえば、狭山さん、千歳の核の人が生前住んでた場所とか詳しかったな。古文書とか読める人だっけか。そういえば大学の選考日本史で、それ系で大学講師で勤めてたみたいなこと、Twitter(現X)で言ってたもんな……。

……狭山さんなら、千歳の過去調べられる?

俺はしばらく考え、思い切ってこう送った。

「千歳の状態に問題はないんですが、千歳が祠に封印される前に何をしたのか、どうして怨霊ってことになって封印されたのか、それが気になってます。そのことで、九さんは思うところがあって、千歳にちょっかい出したいみたいなんです」

それほど経たずに返事がきた。

「怨霊判定されたのは、朝霧の忌み子って呼ばれてた千歳さんの核が、生前の仕打ちを恨んで暴れて、何十人にも危害を加えたからですね。当時の記録残ってて、僕、千歳さんに関わるにあたってだいぶ読みました」

じゃあ、狭山さんは当時の記録だいぶ読んでて、大体のことは知ってるんだ。何十人にも危害を加えた。危害って、殺したことも含むのか?

……含むよな、辞書引かなくたって、それくらいわかる……。

俺は逡巡し、何度も深呼吸した。そして、何度も何度も書き直して、やっとこう送った。

「千歳が危害を加えて、死んだ人がいるってことでしょうか?」

しばらく返事がなかった。やっと送られてきた返事は、こうだった。

「います。記録によって数に違いはありますが、五十人はくだりません」

心臓が跳ねた。五十人以上。そんなに? 千歳が暴れてそんなに?

次にすぐこう送られてきた。

「びっくりすることだと思いますし、和泉さんに言う必要なければ言わなくていい事柄ってことになってたんですが、でも、多分和泉さんは知っててもそれをちゃんと受け止めて使える人だと思うので、言います」

……俺を買いかぶりすぎだよ狭山さん、俺ショックだよ、すごくショックだよ……。

……でも、本当にショックなんだけど、それでも千歳を悪い人に思えない。俺は、千歳に、何事もなく暮らしていて欲しい。千歳に、危害を加えられたくない。

俺は、観念して、九さんに耳打ちされた内容を狭山さんに告げ、その辺をなんとかしないと九さん的には気がおさまらないのかも、とも伝えた。

「千歳のこと、すごくショックなんですが、千歳のこと悪く思えないんです、叶うなら、千歳には私の所で何事もなく幸せに暮らしていてほしいんです」

すぐ返事がきた。

「和泉さん、千歳さんのこと本当に大事ですもんね。僕らも千歳さんには何事もなく穏やかに暮らしてほしいので、できるだけ協力します」

続けてまたLINEが来た。

「今、南さんから連絡来て、子供の時に九さんに何度か相談に乗ってもらったことあるそうなので、その繋がりでなんとか九さんに連絡とってなだめられないかやります、他にもできること無いか探してます」

……とりあえず、大丈夫だ。狭山さんたちは俺たちの味方でいてくれる。

狭山さんに、「本当にありがとうございます、よろしくお願いします」と返信し、俺は大きく息をついた。

できることはやった。あとは……俺の気持ちをどうにかすればいいだけだ。

俺は、千歳に何事もなく幸せに暮らしていて欲しい。過去がどうあっても、俺は千歳を悪く思えない。どうしても悪く思えない。

でも、過去がどうであっても、これからは……千歳には誰も傷つけないでほしい、と思う。

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