あなたをひどく思えない
千歳と会う少し前のことを思い出す。
ずっと頭痛と微熱と動悸と下痢が続いていた。とにかく具合が悪くて、ぼーっとしているだけでも辛かった。眠っても、悪夢ばかり見てまったく休まらなかった。病院で治療して、働ける時なんとか働いて、できるだけ努力してたけど、貯金は減るばかりだった。
千歳と会った日は、薬局に薬を取りに行った日だった。処方箋は渡していたけど、在庫がなくてなかなかもらえていなかった薬。グランダキシン。
自律神経失調症に使う薬だけど、分類的には抗不安薬で有名なベンゾジアゼピン系の薬。俺が自立支援医療を使える根拠になる薬。そして、副作用に眠気のある薬。
飲み残しも合わせて、5シート手元における計算だった。俺は、苦痛なく眠りたかった。全部飲んだら、少しは苦痛がなくなるかと思った。
グランダキシンを取りに行く前に、部屋を整理した。腐りそうなものは処分して、目につくゴミも全部まとめて出した。自分がグランダキシンでしばらく機能しなくなっても、しばらく大丈夫なようにと思っていた。
もし永久に機能しなくても、別にいいやと思っていた。
帰り道、近道になるかと思って普段と違う道を通った。そしたら意外と坂が多く、部屋の整理の疲労もあって、俺はヘロヘロになってしまった。
ふらついて転び、ぶつかったのが、たまたま小さな祠だった。
……そうして出会い、俺に本当によくしてくれて、今俺の目の前で朝食を食べている人。
何十人も殺した、人殺しだと言われた人。
その人が、俺を見て、心配そうに言った。
『おい、大丈夫か?』
「あ、うん……」
『もしかして、熱中症ってやつか? 結構日が昇るまで外にいたからなあ』
ちがうんだ、そういうことではないんだ。
俺によくしてくれて、たくさんかまってくれて、こんなに健康にしてくれた人を、たくさん働けるようにしてくれた人を、俺はどう見ればいいんだ?
……前に、金谷さんが千歳のことを、人に危害を加えたことがあると言っていた。怨霊ってずっと呼ばれてるんだ、それだけのことをしでかしてておかしくない、それはそうなんだけど。
「あの……調子が悪いとかじゃないんだ、さっきの銀狐さんが何かしてこないか心配で」
俺は、事実では無いが嘘でもない、くらいの返答でお茶を濁した。とてもこんなこと、本人に問いただせない。あなたは人殺しですか? なんて。
千歳は口をとがらせた。
『ふっとばしてやるって言ったろ』
「でも、千歳のこと多少は知ってる人っぽかったから、千歳にふっとばされない方法知ってるかもしれないしさ」
『うーん……』
千歳は多少思うところがあったらしい。難しい顔になった。
「えっと、その、俺今日休みだし、相談できる人に片っ端から声かけてみるよ。南さんにも金谷さんにも、狭山さんにも。銀狐さんとの仲立ちしてくれるかもしれないし」
そうだ、他の人からも情報収集しなければならない。俺には、あまりにも情報が足りない。
俺は、千歳をどうとらえるべきなのか。他の人の力を借りれば、いい案があるかもしれない。
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