番外編 銀狐、九の言い分

元の世界に戻してやった男、和泉を隣の異界から見ている。怨霊は和泉にすぐに駆け寄り、心配して和泉をいじり回していた。

……久しぶりにこちらを通りがかり、怨霊の姿を見た時は本当に驚いた。どうすればいいか考えていた時、怨霊の願いと和泉の願いを聞いた。和泉は、怨霊のことをとても大事に思っていた。そして、怨霊も『こいつがいなくなりませんように』『こいつが楽しいこと、たくさん増やしてやるから、どうかいなくなりませんように』と願っていた。

……あの怨霊は、何十人も殺した。妾は、ぐちゃぐちゃに傷つけられて、けれど即死できなかった人間たちの痛みを、すべて抜いてやったのだ。

誰も死にたくなかった。全員誰かにとって大事な人で、いなくなってほしくないと思われていた。

それなのに、お前は大事な人間ができて、そいつにいなくなってほしくないと願っているのか?

お前が?

……まあ、怨霊と違って、和泉と言う男は普通の人間のようだ。悪いことをした訳ではないし、この男に妙なちょっかいをかけるのは可哀想だが……だが、この男が、この怨霊を大事に思っているのは、気に入らない。とても気に入らない。

この怨霊は、とてもそんな、大事にされていい存在ではない。

だから、和泉には真実を教えてやろう。それくらいなら許されるだろう。

妾は、異界からごく小さな通じ穴を開け、空気を震わせるのではない声で、和泉の耳元に語りかけた。

「ずいぶんその怨霊が大事なようじゃな。しかし、その怨霊は人殺しじゃ。何十人も殺しておる。大事にされていいような存在では、ないぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る