閑話 おいしいチョコを楽しみたい(いまごろバレンタイン企画話)
昼飯の席で、祟ってる奴が言い出した。
「千歳、悪いんだけど、仕事手伝ってくれない? 報酬はチョコ」
『うん?』
ワシは目をパチクリした。手伝うのはいいけど、なんかくれるのか?
『チョコ買ってくれるのか?』
「えっとね、俺が買うんじゃなくて、あくまで仕事ね」
祟ってるやつは説明してくれた。チョコ中心に扱ってるお菓子屋で、今度お菓子おすすめサービスをやるらしくて、そのモニターをやって宣伝記事を書くんだそうだ。
「味とか香りの好みなんかのアンケート書いたら、それに沿って、お菓子屋さんおすすめチョコ選んで送ってもらえるんだ。で、千歳にはそのチョコ食べて感想を言ってほしいわけ。俺もやるけどね」
『ふーん』
「なんか、好みに合うけど普段選ばないチョイス、新鮮な驚きチョイスをしてくれるらしいよ」
普段食べないチョコで、でも好みのチョコかあ。いいな。
『やる、いつやればいいんだ?』
「別に急がないけど、可能なら早めにアンケ書いてもらえれば」
『じゃあ、今日の午後やる』
「じゃ、千歳のスマホにアンケートページ送っとくね」
というわけで、ワシは昼飯の後、祟ってる奴からLINEされてきたページの質問に頑張って答えを打ち込んだ。
これでうまく出来てるか、祟ってるやつに見せに行く。
『こんなもんか?』
「うん、大丈夫、ありがとう」
『じゃ、この送信っていうの押せばいいか?』
「うん。あ、でも……」
祟ってる奴は少し考える顔になった。
「千歳ならさ、補足のところにさ、『平成全部と令和四年までの流行を知りません』って書いたほうがいいかも」
『ん? なんでだ?』
確かに、よく知らないけど。
祟ってる奴は言った。
「平成から去年までで流行ったおいしいお菓子、いろいろあるしさ。俺が教えきれないこともたくさんあるから、こういうサービスにおすすめしてもらうの、いいかなと思って」
『うーん、なるほど……。じゃあ、そう書いておく』
ワシは補足の欄に追記して、ついでに、『普段お菓子作るからお菓子に使えるチョコも欲しいです』と書いて、送信を押した。
『お前はなんて書いたんだ?』
「ん? こんな感じ」
祟ってる奴は、椅子を少し横にずらしてパソコンの画面をワシに見せた。
甘いのは好き、でも苦いのも酸っぱいのも嫌いじゃなくて適度なら好き、好きな香りは柑橘系……。補足には「過敏性腸症候群なので多量の油脂と刺激物は控えています」と書いてあった。
『そういや、チョコってけっこう油だよな。お前、たくさん食べて平気か?』
「その辺も加味してチョイスしてくれるかを見てる。俺がたくさん食べちゃいけないやつだったら、千歳にあげるよ」
『うーん、そうか』
こいつもちゃんと考えてるんだな。
アンケートを送って二日後に、クール便が届いた。
『おーい、チョコだ! チョコ届いたぞ!』
「おっ、早いな」
クール便のダンボールは二つあって、それぞれワシのと祟ってる奴のだった。
さっそくワシ宛のダンボールを開けると、いろいろでてきた。柿の種チョコレート、ストーンチョコレート、クーベルチュールチョコレート、純ココア、ほかにもいろいろ。
『柿の種チョコ?』
「あ、ちょっと前に流行って定番化したやつだな。けっこう人気だよ」
『柿の種って、え、あの醤油味でちょっと辛いのにチョコそのままかけたのか!?』
「そう」
『ええー、うまいのかそんなの!?』
「まあ、まずかったら正直にその感想書くから。一応仕事だから、一口でいいから食べてみて」
『うーん』
まあ、一口だけなら……仕事だしなあ……。
袋を開けて、ひとつだけ口に放り込んでみると、まずカリカリ感とチョコの甘味来て、その後塩気が来て甘じょっぱい感じになり、一味みたいな少し辛い感じが、意外とチョコの風味に合った。
ふたつ目も口に入れ、三つ目を手に取りつつ、ワシはつぶやいた。
『意外といけるな……』
「気に入った?」
『うん……気に入ったかも……意外とクセになるな……』
どうにも食べる手が止まらなくて、もぐもぐしながら言うと、祟ってる奴は笑った。
「じゃ、割といいチョイスしてくれるところなんだねえ」
『このストーンチョコって、本当にチョコなのか? 砂利にしか見えん』
「成分的には、マーブルチョコと似たようなもんだってさ」
『そうなのか?』
恐る恐る口に入れてみたけど、確かにちゃんとチョコだった。
他に入ってたチョコチップクッキーもおいしくて、ワシは『いいお菓子屋だから、めちゃくちゃほめとけ』と言った。
「クーベルチュールとココアは試さないの?」
『それは今日のおやつを待っとけ』
「?」
同封レシピを見ながら、ワシはニヤっと笑った。
というわけで、今日のおやつ。アイス塩ココアとチョコレートプリン。
『ほら! 食べろ! ワシも食べる!』
祟ってる奴に出してやると、祟ってる奴はびっくりした顔をした。
「え、千歳のなのに、いいの!?」
『お前にもいい感じのレシピ書いてあったから作ってやったんだ、ありがたく食べろ』
ワシは一足先に食卓について、アイス塩ココアをすすった。うん、ちょっとだけの塩なのに、甘みとコクが増幅されてて、すごくうまい。
『うん! いい感じにできてる! お前も早く食べろ!』
「え、じゃあ、いただきます、ありがとう」
祟ってる奴はプリンを食べ、目を丸くした。
「すごくいい香り……すっごくおいしい」
『いいチョコレートだと違うなあ』
ワシもプリンをスプーンですくった。確かににチョコレートの香りが違う。
クーベルチュールチョコレートもココアも結構あるから、しばらくこいつのおやつ作りに使えるな。絶対うまいのができるから、わしも一緒に食べよう。
「ありがとうね千歳、後で俺のも分けたげるから」
『うん! 一個ずつでいいから全種類食いたい!』
おやつの後、ドライオレンジのチョコレートがけ、レモンピールのホワイトチョコがけ、ゆずチョコなんかをもらった。ふーん、こいつの好きそうなの選ぶとこういうお菓子になるのか、覚えておこう。レモンのヨーグルトケーキなんか、いいかな?
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