番外編 お前の願いを知りたい話

祟ってる奴が、お祖母さんからのお礼のビデオ通話してる。ワシは声と姿が入らないように、台所で大人しく料理してる。

お祖母さんの声が、祟ってる奴のスマホから聞こえる。

〈紅茶ありがとうねえ、お菓子もおいしかったわ、千歳さんも選んでくれたんでしょう?〉

「あ、うん、あと、千歳の友達で、紅茶に詳しい人が手伝ってくれた」

〈そうなの! お礼言っておいてねえ〉

祟ってる奴は、仕事詰まってるけど、お祖母さんとの時間は無理やり空けたらしい。お祖母さんのこと大事なんだな。お祖母さんも紅茶とお菓子気に入ったらしいし、あいつの頼み事聞いてやってよかったな。

お祖母さんが喜んでるのを見てる祟ってる奴は、楽しそうだ。

ワシは、祟ってる奴がいなくならないでほしい。いなくならないように、あいつの楽しいことを増やしたい。あいつが望むこと、なるべく叶えてやったら、あいつは楽しいのかな?

でも、あいつが叶えたいことってなんだろう。あいつの願い事ってなんだろう?

その時、ふと声がした。空気を震わせるのとは別の声。

(お久しぶり、怨霊くん。仲良くやってるみたいだね?)

『ん? 藤のおっさん?』

ワシは、ビデオ通話がワシの声を拾わないように、小さく返事した。

『どうしたんだ?』

(もうすぐお盆だから、この世にログインしてきた。元気かなと思って)

『そうか。ワシはすごく元気だぞ、あいつもそれなりに元気だ、いろいろあったけど』

(いろいろあったの?)

『んー、いろいろありすぎて、口で言うのめんどいから、ちょっと体の表面ギュッとして中に入れ』

(じゃあ、失礼)

藤のおっさんはワシの背中から入り、少しして出てきた。

(……わりといろいろだねえ)

だいたいわかったらしい。

『まあそんなだからさ、あいつに楽しいことを増やしてやらないといけないんだ。だからあいつの望み叶えてやるといいかなとおもったんだけど、何が願い事か、よくわからないんだ』

藤のおっさんは首をひねった。

(うーん、人の願いって、意外と明確じゃないからねえ)

『そんなもんか?』

(割とそんなもんだよ。言葉に出して願わないと、自分でも意外とはっきりしないよ)

『そんなもんかなあ』

(聞けばいいじゃない、なにかしたいことある? って)

『うーん、正面から聞くと、あいつ、遠慮してはっきり言わないかもしれない』

誕生日プレゼントの時、なんとなくそんな感じだったし。

(じゃあ、なんか工夫しないとなあ)

『そうなんだよなあ』

(まあ、がんばってね。俺、実家と弟のところにも行くからさ)

『うん、おっさんも元気でな』

おっさんはスーッと消えた。

あいつの願いをはっきりさせる方法。あいつの願いを言葉にする方法。何がいいだろう?

おっさんがいなくなったあと。答えそのものがあるはずもないけど、なにかの参考にならないかと思って、Googleっていうので検索してみた。そしたら、神社や寺にお参りするのを勧める記事が目にとまった。自分の中の願いや目標をはっきりさせるのによくて、はっきりしたらそれに向けて頑張りやすいんだって。

……そういえば、年末年始バタバタで、初詣なんか行ってないな。

よし! これにしよう! 初詣誘って、お参りの時になんとかして、あいつの願いを口に出させよう!

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